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3章 〜アルツハイマーの治療と患者の介護〜

3.1 早期発見の重要性

現在、残念ながらアルツハイマーに対する根本的な治療法はないが、早期治療により症状の進行を遅らせることはできるようになってきている。したがって、アルツハイマーの治療には早期発見が重要であり、そのためには本人の自覚症状に頼るだけでなく、家族が日々の生活におけるちょっとした変化に気を配ることも大切である。

早期発見のために気をつけるべき症状を挙げると、まず、多くの場合はアルツハイマーの前駆症状として、知的能力の低下に先立って(2〜3年前から)軽度の人格変化が現れる。具体的には、以前より頑固になったり、自己中心的になって他者への配慮がなくなったりする。こういった兆候が見られる場合は、要注意である。前駆症状としては他に、頭痛や目まい、不眠、不安感、自発性低下、抑うつ状態などが認められる。このような症状は本人も気づかないこと多い上に、うつ病とも判断されやすいので厄介である。アルツハイマーの初期症状としては、健忘症状、多動、徘徊が見られたり、帰宅途中で道に迷ったりする。この初期段階では、本人の自覚はない。これらの症状が現れた場合は、すぐに医療機関で診断を受け、治療してもらうことが必要である。

3.2 アルツハイマーの治療薬

アルツハイマーの治療に用いられている薬としては前章で紹介したドネペシルが有名であるが、それとは別に、アルツハイマーの周辺症状(認知機能の障害とは別の障害)に対しても薬が使われている。

まず、夜間せん妄(寝ているときと起きているときの区別が無くなり、寝ぼけたような状態になる)や徘徊などには精神安定剤を使うことがある。ただし、高齢者に安定剤を用いるとよろけたりして怪我をすることがあるので、注意が必要である。また、妄想や幻覚には向精神薬を使うこともある。

アルツハイマーの治療には薬が用いられているが、周辺症状の治療の際は、薬にはあまり頼らずに施設を利用する方が望ましいと言われている。

3.3 アルツハイマー患者の介護

アルツハイマーが進行してくると、日常生活において当たり前のように行ってきた、食事、更衣、入浴、排泄などの行動に障害が生じる。また、徘徊などの問題行動が見られたり、せん妄などの精神的な症状が現れたりもする。ここまで症状が進行した患者を介護するには人手、時間、体力が必要であり、患者の家族には大きな負担がかかる。しかも、高齢化と少子化が進む現代社会においては、家族だけでアルツハイマーの患者の介護をするのは不可能と言えるほどに、介護を行える家族の人数は減少している。

症状がさらに進むと、患者は尿意や便意を感じなくなってくるのでおむつを使わなくてはならなくなり、階段を上るといった軽い運動にも介護が必要となってくる。この時期になると、在宅介護を諦めて長期の施設入院に移ることが多くなる。

介護保険制度が誕生したおかげで、現在は介護のために施設を利用することが以前よりずっと容易になっている。しかし、そこでのサービスの内容についてはよく知らない人が多い。

3.4 症状改善につながる介護

アルツハイマーの症状は、記憶力の低下、自分のいる場所や時間がわからなくなる、物事の理解や判断ができなくなるといった症状が合わさって起こる。例えば、失禁してしまうのは、トイレに行きたくてもトイレの場所がわからなくなるからである場合がある。

アルツハイマーの症状のうちで、こういった行動障害などは、専門家のアドバイスを受けたり家族の事情を考えたりして、その症状がおこっている原因を突き止めれば、介護者のちょっとした工夫によって改善できることも多い。失禁の場合、トイレの場所がわからないことが原因であると考えられるなら、夜間トイレまでの電気をつけっ放しにしておく、トイレのドアを開けておく、トイレの扉に「便所」と書いた大きな看板を張っておくなどの工夫により、症状を改善することができる。また、服の着脱に手間取っている間に失禁してしまう場合は、脱ぎやすい服を着させてあげることにより失禁を防ぐことができる。

このように、アイディア次第で症状の改善に効果的な介護ができる。

3.5 アルツハイマー患者との接し方

アルツハイマーの患者と接するときは、まずアルツハイマーをよく理解し、患者に対して要求を高くしないこと、そして患者のペースに合わせ、行動を妨げたり自尊心を傷つけたりしないようにすることが大切である。周囲の人間がいらいらして患者を叱りつけたり患者ができなかったことを責めたりすると、アルツハイマーの周辺症状が現れやすくなる。

また、話が通じないからといって、患者を特別扱いしたりコミュニケーションを怠ったりすると、患者との関係を悪化させることになる。優しい仕草、温かいまなざし、笑顔で患者を包み、患者と良好な関係を築くことが重要である。その結果返ってくる患者の笑顔は、周囲の人間のストレスを軽減することにもつながるだろう。

3.6 短期の施設ケア

高齢化社会の進行に伴って介護施設に対する注目度は高くなり、施設のサービスの量、質ともに少しずつではあるが向上している。このような施設を利用するにはもちろんお金もかかり、介護保険があっても決して安いものではない。

しかし、短期の施設ケアを利用すれば、介護者の負担を減らして介護から離れた自由な時間を作ることができる。このような介護者の休み時間は、長い場合は10年にも及ぶ介護生活を続けていく上では、不可欠なものである。まだまだ自宅で介護を続けていけるという余裕があるうちから、短期の施設ケアの積極的な利用を考えた方が良いと言える。

短期の施設ケアには、デイサービスやショートステイなどがある。

デイサービスは、老人ホームなどの福祉施設に患者を昼の間だけ預かってもらうというものである。症状の程度によってサービスが分かれており、体操、ゲーム、音楽などのプログラムを行う所もあれば、歓談したり将棋をさしたりする所もある。

ショートステイは、一泊または数泊にわたって患者の面倒を見てもらうものである。介護している家族にとっては介護から完全に離れる時間ができる点が良いが、患者にとっては、環境の激変についていけずに症状が悪化してしまうという例も多々ある。ショートステイを行っている施設のほとんどはデイサービスを日中に行っているので、何度かデイサービスを利用した後にショートステイを試してみるという形が良いだろう。

3.7 終身介護

どんなにアルツハイマーの進行が遅いように見えても、多くの場合、いつかは在宅介護の限界を迎える。そうなったときは、終身介護を行っている施設への入所を考えなくてはならない。終身介護を行う施設の種類は様々であり、そこで行われている介護の充実度も千差万別である。患者のその後の人生を決めることになるので、施設を選ぶときは慎重に慎重を重ねる必要がある。そのときになって慌てないように、在宅介護を続けていける余裕のある時期から、いろいろな施設を見て検討しておくことが大事である。

長期入院を行っている介護施設には、特別養護老人ホーム、グループホーム、介護療養型病院などがある。

特別養護老人ホームは、介護保険で入居することができる施設である。上に挙げた三つの施設の中では最も質のばらつきが少なく、安定した介護を期待できる。デイサービスなどを並行して行っている場所が多いので、これらのサービスを利用して介護の雰囲気をつかんでから入居すれば、連続性も保たれるため安心と言える。ただし、大都市部では入居待機者待ちリストに入ってから入居まで数年かかるのが普通であり、早めの準備が必要である。

グループホームは、10人未満の少人数で生活する施設である。入居料に関しては介護保険の対象外だが、施設入居後に行われる介護には介護保険が適用でき、介護保険が導入された後、急速に増えている施設である。できる家事を分担しながら生活するというようなものであり、老人ホーム等に比べて在宅生活に形が近い。特別養護老人ホームより症状の軽い患者が入居することも多い。介護の質に関しては、施設が小規模であるがゆえに、スタッフの人柄や同居する患者との巡り合わせなど、偶然によって左右されてしまうところがある。そのため、慣れるまで何度も足を運ぶことが大事である。

介護療養型病院は、いわゆる老人病院である。介護保険が使える場合と、通常の医療保険が使える場合があります。アルツハイマーが進行して身体の障害がひどくなった場合、他の施設には無い介護が期待できる。

3.8 介護施設の実際

実際には介護施設がどのようなものであるかを調べるために見学した、「宅老所かがやき」について以下で紹介していく。「かがやき」は東京都足立区にある、普通の家を改装した小さな介護施設で、デイサービスや長期入院を行っている。

「かがやき」では、朝8時ごろ、入居者(「かがやき」で終身介護を受けている人たち)6人がばらばらと起床する。2、3階が寝室、1階が居間になっており、エレベータや階段を使って自力で降りてくる人もいれば、スタッフに車椅子に乗せられてくる人もいる。その後、朝食を取り、10時にはデイサービスを利用する人が送迎バスに乗ってやってくる。「かがやき」のデイサービスは、プログラムが決まっていてゲームなどを行うという形ではなく、単に患者を預かって世話をするというスタンスで行っている。16時にデイサービスが終了し、それから入居者の入浴を行い、18時に夕食をとる。夕食のときは、晩酌をする人もいる。その後、三々五々、就寝していく。スタッフの人は、夜通しで何か異常がないか見回りをしている。

この施設の特徴は、小規模であることと、だいたい患者2人につき1人のスタッフがつけるという恵まれた条件があることである。このため、デイサービスで散歩をしたい人がいればスタッフが付き添って散歩し、患者が「お寿司を食べたい」と言えば昼食の予定を変更してみんなで寿司を食べに出かける。また、食事をなかなか取れない人には食事が終わるまでスタッフがじっくり付き合う。このように、非常に自由できめこまかい介護が行われている。こうした環境のおかげで、患者一人一人についての問題行動は非常に少なくなっている。在宅介護の場合、家族は他に自分の仕事もしなくてはならず、このようなきめ細かい介護は不可能だろう。「かがやき」のサービスは、家族ができない介護を施設が行えるということを如実に表していたと言える。


不老不死への科学