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1.3 ベニテングタケ

1.3.0 イントロダクション
合法ドラッグにはさまざまな種類があるが、その多くは幻覚、酩酊、また依存性を呼び起こすものとして認識されているであろう。ベニテングタケは一般的には、はっきりと毒であるとして知られているはずであるが、実はこれも合法ドラッグのひとつなのである。ベニテングタケはなぜ、合法ドラッグとして用いられるのか。また、ベニテングタケのどのような成分が合法ドラッグとして用いられる要因となったのか。これからそれを述べていくことにしよう。

1.3.1 ベニテングタケと、その古今東西における利用
まず、ベニテングタケの生物学上の分類や、特徴などを見てみよう。

ベニテングタケ(Amanita muscaria)
テングダケ科テングダケ属
傘の径は10cm前後で赤く、白い斑点がある。柄は白。
テングダケの仲間は北半球の温帯以北に広く分布し、日本では50種ほどが知られている。
ダケカンバ、白樺やトウヒ林などに夏から秋ごろに生える。
共通の傘、ツバ、ツボ(根元の卵のような部分)が特徴。

ベニテングタケ

ベニテングタケは外見が特徴的であることから、特にヨーロッパで、童話や民間伝承をモチーフにした絵にかなり頻繁に出てくる。毒性は弱く、酔いや幻覚作用のために昔から宗教儀式など、様々な利用がなされてきた。その数例をここに挙げる。

(1) ロシア
ウォッカの酔いを深めるために丸ごと食されたり、ウォッカに漬けることもある。また1730年の記録によるとシベリア東北部の裕福な家庭では、冬に備えてこの茸を蓄え、宴会の際に茸に水を注いで煮立てて飲むことで酔いを楽しんだとある。同じくシベリアからカムチャッカにかけては様々な部族の宗教儀式において、水やミルク、果汁などとこの茸を混ぜ、酒の換わり用いたという記録もある。さらには貧民の間ではこの茸を食した者の尿を飲んでいた、という記述が複数の文献に見られるが、真偽は定かではない。

(2) 北欧
9〜11世紀にかけて全盛を誇ったバイキングの戦士達は、戦の前にこの茸を食べ士気を上げたといわれる。

(3) 日本
塩漬けにして毒を抜いて(完全ではない)乾燥させて保存する地方がある。長野の菅平が特に有名。火であぶり醤油をかけて食べたり、炊き込みご飯にしたりなど何でもありである。毒素としての一つにアミノ酸があり(後述)それがうまみに感じるらしい。土着の老人には60年以上食べ続けてきた方もいるが、やはり無害という認識はさすがに無いそうだ。またハエ退治に使われていたこともあり、少々あぶって部屋においておくと、誘われて茸にとまったハエは昇天するという。

1.3.2 ベニテングタケに含まれる化学物質とその薬理作用
ベニテングダケの持っている毒の成分は神経系の受容体に作用し、よだれや発汗の促進、血圧降下、下痢、視力障害、躁鬱、錯乱、幻覚等の食中毒の症状が現れる。

(1) ムスカリン

体には自律神経という、体の内部からの情報や外部からの刺激に対して自動的に反応し、循環・消化・代謝・体温調節・生殖などの機能をコントロールする機能がある。自律神経は、緊張したときに作用する「交感神経」と体力を回復するときに作用する「副交感神経」により二重拮抗支配が行われ、両者が必要に応じて切り替わることで体のバランスを保っている。この副交感神経にあるアセチルコリン受容体は主にムスカリン様受容体、ニコチン様受容体の2種類に分けられる。ムスカリンは「ムスカリン様」の語源ともなった物質であり、ムスカリン様受容体に特異的に結合し、副交感神経興奮様症状を現す。なお、あのタバコのニコチンはニコチン様受容体に作用し、少量では刺激作用、大量では著明な刺激作用の後抑制作用がおきる。

ムスカリンによって副交感神経が刺激されると、消化管の運動が促進され、汗腺、唾液腺、涙腺、胃腸管外分泌腺が亢進する。また末梢血管が拡張するため血圧が降下し、眼にある虹彩括約筋が収縮して縮瞳が起こり、毛様体筋が痙攣し、調節障害がおこる。これらのいわゆるムスカリン様作用によってベニテングダケ食中毒の症状の一部が引き起こされている。

なお、ムスカリンの人に対する致死量は180mgと推定されている。ムスカリン中毒になってしまったときは、胃腸洗浄、アトロピン(ムスカリンと拮抗する化合物)0.4〜0.6mgをムスカリン症状がなくなるまで0.5〜1時間おきに筋肉内注射や静脈注射する。

一般にベニテングタケの毒成分としてムスカリンがよく挙げられるのだが、実はムスカリンだけではベニテングタケの中毒症状を説明できない。縮瞳、発汗、呼吸急迫、徐脈、よだれや発汗の促進、血圧の低下や胃腸の痙攣などという症状は、確かにムスカリンが副交感神経を興奮させることで引き起こされる。しかしムスカリンには精神作用が無いらしいのである。ムスカリンでは特に「酔う」「幻覚」などといった精神作用については全く説明が不可能ということになる。
では、一体どんな成分が精神作用に有効であるのか?いわゆるテングタケの仲間から見つかった物質はムシモール、イボテン酸などと言う物質であった。これらはどういうものなのだろうか?

ムシモール   

(2) ムシモール

ムシモールは、グルタミン酸→トリコロミン酸→イボテン酸→ムシモールという経路でイボテン酸から脱炭酸(文字通りCO2が抜ける)という反応で作られるものである。
では、ムシモールの作用について見てみよう。

ムシモールは神経伝達物質の一つγ-アミノ酪酸、通称「GABA(ぎゃば)」と構造が似ていることが知られている。このGABAは脳における支配的な伝達物質であり、抑制性神経伝達物質として働き、これが受容体に結合することで神経伝達について抑制的に働く。つまり神経での伝達物質の放出頻度を落とすように作用する。

ムシモールとGABAの関係であるが、ムシモールは強い中枢神経抑制作用を持つと同時に、GABAと拮抗する作用を持っている。そして、その抑制作用から結果的に脳の働きを不活発にして行く働きがある。こうなると眠くなったり酔った感じになることに、ある程度の説明がつくようになる。

ところで、ベニテングダケをそのまま食べるより、ベニテングダケ使用者の尿の方が、効果が強いと言う話が残されている。尿の研究はそう多くされていないようなのであまり具体的な事は言えないのだが、ベニテングタケなどの持つ活性物質は尿中に排泄される。ここに至る過程までにイボテン酸は体内で脱炭酸反応を受け、この結果ムシモールになって排泄されるのではないかと言う話がある(つまり活性化することになる)。こう考えると、元来入っていたムシモールに、更にイボテン酸が代謝を受けて変化したムシモールが加わるわけであり、最終的に尿中のムシモールの量が増える可能性がある。

イボテン酸    

(3) イボテン酸

イボテン酸(ibotenic acid) は仙台地方の海岸に出るイボテングタケから最初に抽出されたためにその名がある。神経伝達物質の一つでアミノ酸でもあるグルタミン酸と構造がよく似ている。グルタミン酸は、GABAとは逆に、神経興奮作用を持っている。これは脳における重要な神経伝達物質である。イボテン酸はこのグルタミン酸と同じような作用を持つが、グルタミン酸よりももっと強力で2〜7倍もの興奮作用を持っている。

イボテン酸とトリコロミン酸にうま味があることが分かっている。これには根拠があり、ムシモールのところで述べたように、これらの物質の「大元」はグルタミン酸であるが、このグルタミン酸はいわゆる「うま味」の元で、いわゆる「味の素」などの調味料にグルタミン酸ナトリウムとして使われている。そして、うま味を感じさせる最低濃度は、グルタミン酸ナトリウムの0.02%に対し、イボテン酸やトリコロミン酸は0.001〜0.003%である。つまり、これらのアミノ酸のうま味はグルタミン酸ナトリウムのなんと10〜20倍もあるということになるのである。

グルタミン酸について少し補足すると、グルタミン酸は興奮性伝達物質で中枢神経系に大量に存在している。また、伝達物質としての役割以外に、中間代謝産物としての役割も持ち、またタンパク質合成の素材としても使われる。したがって脳内に存在するグルタミン酸のすべてが伝達物質として働いているわけではない。

1.3.3 ベニテングタケの効果の原因
ベニテングダケの幻覚作用の主な原因は、ムシモールだと考えられており、実験でいくつかその証拠が示されている。15mgのムシモールをヒトが服用すると、45分後に軽い幻覚が表れた、と言う報告が出ているが、イボテン酸の方は20mgを用いても顔面の紅潮を自覚する程度であった。ヒトの中枢神経系を乱す閾値はムシモ−ル約6mg,イボテン酸はその5〜10倍であり、ラットに対するムシモ−ルのLD50は4.5mg/kg(i.v).〜45 mg/kg(p.o.)、ヒトに対するムスカリンの経口致死量は0.3gである。ベニテングタケを食べてムスカリン中毒で死ぬためには100〜120kg食べなければならない。しかし、実際は他の毒も含まれているので10-20本食べると致死量に達すると推定されている。

1.3.4 ベニテングタケの入手方法
紅天狗茸は渋谷などの街角や、インターネットで気軽に手に入れることができる。
いずれも紅天狗茸の粉に数種類のハーブを加えたものであり、次のような商品名で売られているようである。
7TH HEAVEN
SOMA EXTRACT
サイケマッシュ
エックスマッシュ

大体パック(2〜3回分)四千円前後で売られていて、効果は平均3〜6時間持続するらしい。
参考文献
new薬理学  南江堂  田中千賀子、加藤隆一 編集
標準薬理学 医学書院 鹿取信 監修
参考URL
http://www.sue.shiga-u.ac.jp/kinoko/kinoko-b.htm
http://home.r02.itscom.net/ktym/albedo/column_top.html

不老不死への科学