第3章 〜対策・展望〜

3.1飛散した花粉に対する対策
3.1.1 マスク
花粉の飛散量の多い晴れた日はマスクを着用して外出する。また、花粉症の発症には花粉ばかりではなくディーゼル車の煤塵も関与している。ディーゼルエンジンの不完全燃焼によって排気されるガス(DEP=DieselExhaustParticles)に含まれる微粒子は体内の中に入ると通常の3~4倍もの抗体が生みされて花粉に敏感に反応されるようになってしまうといわれている。花粉症を悪化させないようにするために幹線道路のそばを歩くときもマスクを着用したほうが良い。花粉症用のマスクを着用すると花粉が約1/6程度に減少することが分かっている。

3.1.2 空気清浄機・加湿器
部屋の空気を清澄に保つために空気清浄機を利用する。また、部屋の換気をするときは花粉の飛んでいない朝早くか夕方以降にする。

3.1.3 布団・衣類乾燥機
洗濯物や布団を外に干すと干している間に花粉が付着する可能性があるので、花粉が飛散する季節は乾燥機を利用する。衣類を外に干す場合は花粉が衣類につかないようにポリエステルネットで衣類を保護すると良い。また、外出時に着用した衣類に花粉が付着して家の中に花粉を持ち込むことを防ぐために、コートや上着は起毛したものではなく、なるべくつるつるした綿や化学繊維のものを選ぶ。家に入る前に玄関前で上着をはたいて付着した花粉を落とすようにすることも効果的である。

3.1.4 掃除用具
花粉症の時期の掃除はぞうきんがけが基本である。排気が出るタイプの掃除機を使う場合は排気をなるべく外に出すように工夫することが必要で、排気の出ないタイプの掃除機や排気のきれいな掃除機を使う手もある。吸い込んだゴミを水フィルターに閉じ込めて外に出さないようにする掃除機などが市販されている。特に布団や絨毯にはローラータイプの粘着力で花粉を取り除く掃除用具が排気が出なくて好ましい。

3.1.5 スチーム吸入器
花粉症で炎症を起こしている喉や鼻を温かいスチームで加湿・加温すると、粘膜の再生作用が促進されて喉や鼻の不快な症状が緩和される効果がある。

3.1.6 鼻洗浄器
鼻腔粘膜にくっついた花粉・ほこり・雑菌をきれいに洗浄し、鼻水・鼻づまり・鼻炎などの症状を緩和する。
3.1.7 その他
つばの大きい帽子をかぶって外出することで顔に花粉をつきにくくする。花粉の飛散する時期はコンタクトレンズより眼鏡にしたほうが良い。外出から帰ったら洗顔・洗眼・手洗い・うがいを実行し、付着した花粉を落とす。鼻粘膜の状態を良くするように、悪化の因子であるストレス、睡眠不足、飲みすぎ、喫煙などを抑えることが必要である。

3.2 花粉の飛散量を減らす対策
3.2.1 花粉の少ないスギ品種の開発
独立行政法人林木育種センターでは、都県と連携して花粉の少ないスギを112品種開発した。それらの品種は平年では花粉を生産せず、また生産してもごく僅少で、花粉飛散量の多い年でもほとんど花粉を生産しない。花粉生産量は一般のスギに比べて約1%以下である。花粉の少ないスギ品種の原種は、林木育種センターから穂木または苗木の形で都道府県等へ配布される。都道府県等は配布された原種を使って採種園、採穂園の造成・改良を行い、花粉の少ないスギ品種のさし穂や種子を生産する。そのあと、種苗生産業者等がこれらのさし穂、種子から植林用の苗木を大量に生産し、森林所有者等により山林へ植えられる。今後5年間で約60万本を越える供給が見込まれている。

3.2.2 無花粉スギの開発
独立行政法人林木育種センターでは、関東育種基本区内においてこれまでに選抜、収集・保存してきたスギ1400クローンを対象に雄花の中の花粉の状態について調査をおこなったところ、気象害抵抗性候補木である個体の1つが遺伝的に花粉が全く生産されない特性を持つ無花粉スギ(雄性不稔スギ)であることを確認した。この無花粉スギは「爽春(そうしゅん)」と名づけられている。無花粉スギは普通のスギと同様に雄花をつけるが、雄花の成熟過程で花粉が正常に発達せず、最終的には花粉が生産されないという特徴を有している。今回林木育種センターが開発した無花粉スギは23~24年生の個体が60本程度成育しているので里山や都市近郊での植林等に用いる品種として、都道府県等から採穂園等造成用の穂木(原種)の配布要請があれば、これらの個体から穂木を採取し、直ちに供給することが可能である。平成23年頃から約13000本の苗木を供給し、花粉の少ないスギ品種と合わせて無花粉スギの普及を推進することが見込まれている。

3.2.3 抜き伐り
林野庁では花粉のもととなる雄花の量が多い木と少ない木があることに着目し、平成14年度から、森林の公益的機能の著しい低下を招くことなく花粉発生量を縮減することを目的として、スギ等人工林における雄花着花量の多い個体の抜き伐りに取り組んでいる。

3.3 今後の展望
3.3.1 ワクチン
平成16年度より理化学研究所は国立病院機構相模原病院等と「スギ花粉アレルゲンを用いたアレルゲン特異的治療法の研究」に関する共同研究を行うとともに、スギ花粉CpG(スギ花粉症を引き起こす原因抗原タンパク質のひとつ)の作成のためDYNAVAX社との共同研究を実施している。17年度よりワクチンデザイン研究チームを新設し、花粉症等アレルギーの根治治療を目指すスギ花粉CpGワクチンの開発研究を行うことになっている。

3.3.2 新しいスギ品種の開発
花粉の少ないスギ品種・無花粉スギにつづいてアレルゲンの少ない品種の開発が現在進んでいる。平成17年度には新たな品種を開発できる見込みとなっている。

3.3.3 花粉症緩和米
農林水産省では「食べる」という日常生活の営みの中で、予防や症状緩和が図れるのであれば、QOL(qualityoflife)の向上をはかれ、さらに医療行為を減らすことにつながって30兆円にも上る国民医療費について負担の軽減を図ることができることを見込んで抗アレルギー物質を含むお茶の商品化・花粉症緩和米の開発に取り組んでいる。
花粉症緩和米とは、T細胞エピトープを発現させたコメのことで、経口免疫寛容によりアレルギーを軽減させる。日常的に口にする食品であるコメを利用するので簡便な治療法として期待される。

(1)エピトープペプチド
認識されるエピトープは遺伝子型によって異なるため、T細胞エピトープとしてCryj1,Cryj2から7つのエピトープを連結した7連結ペプチドを用いる。連結ペプチドは90%以上の患者でスギ花粉特異的なT細胞に認識されることが報告されており、スギ花粉アレルギー特異的なIgE抗体との結合性がないことも明らかになっているため、アレルゲンそのものを用いた場合よりも副作用の心配が少ない。
(2)エピトープペプチドの発現
ペプチド遺伝子を胚乳中に蓄積させるためイネの主要な貯蔵タンパク質であるグルテリンの胚乳特異的プロモーターが用いる。エピトープペプチドは胚乳中に特異的に発現し、またマウスでの結果から換算して体重60kgのヒトが毎日1合のコメを食べるとした場合に十分効果が期待できる量のエピトープペプチドが蓄積された。
(3)有効性
マウスに対するT細胞増殖反応性を調べた結果本来のアレルゲンと同様な反応性を示した。また、エピトープ集積米と普通のコメで比べた場合、エピトープ集積米を食べさせたマウスはIgE抗体のレベルが約30%程度に低下した。またエピトープペプチドの高温安定性も確かめられており、炊飯により効果は失われないことがわかっている。
(4)GMO植物
遺伝子組換え植物に対する懸念に対しては、抗生物質耐性遺伝子などの選抜マーカー遺伝子を含まないイネの開発が進んでいる。また花粉の飛散による周囲への影響を評価するため閉鎖系および非閉鎖系の温室での環境安全性が調査されている。
(5)その他
今後研究が必要とされるものとして、食品安全性、アレルギー患者での効果の調査が挙げられる。商品化にあたっては普通のコメとの区別のためトレーサビリティのための方法を考える必要がある。

参考文献・サイト(第3章)
http://eco.goo.ne.jp/life/health/kafun/(環境goo)
http://www.rinya.maff.go.jp/seisaku/sakusyokai/kafun/kafuntop.html
(林野庁スギ・ヒノキに関する情報)
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/kafun/torikumi.html
(厚生労働省花粉症特集)
http://www.allergy.go.jp/allergy/index.html(アレルギー情報センター)
http://homepage3.nifty.com/aoba3/(北尾耳鼻咽喉科)
http://www.jaanet.org/(財団法人日本アレルギー協会)
http://www.tky.3web.ne.jp/~imaitoru/
(東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学教室アレルギー研究班の花粉症のページ)
http://www.nias.affrc.go.jp/(独立行政法人農業生物資源研究所)
http://www.js-allergol.gr.jp/(日本アレルギー学会)
http://jja.js-allergol.gr.jp/(日本アレルギー学会オンラインジャーナル)
日本経済新聞
http://www.matsuda-d.com/hifuka/index.htm(松田知子皮膚科)
http://yg-allergy.com/(用賀アレルギークリニック)

不老不死への科学