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第1章 〜漢方薬概論〜
 
◆漢方薬とは
天然に産出する植物の種子、葉、根茎、根、貝殻、昆虫などを乾燥させるなど簡単な操作を加えたものを刻んで用いる、伝統的な漢方医学の中で治療に用いられる生薬である。


◆日本漢方の歴史
中国の医学が5〜6世紀ごろより日中の交流が盛んになるにつれて、日本に入ってきた。
日本に仏教を伝えた鑑真和上により、薬物とそれに伴う医療が導入された。984年には、丹波康頼により中国医学の引用を内容とした「医心方(いしんぽう)」が表された。その後、中国の金・元医学が伝えられた。陰陽五行説の影響の強い医学であるが、田代三喜曲直瀬道三らが日本的な医学に改めた。これが、後世派である。
 この後世派に対して、実証的医学として古方派が登場した。
 16世紀後半より、キリスト教の伝来と時を同じくして、西欧諸国の医学が日本に伝えられた。18世紀以降はこれらがますます盛んとなり、オランダ医学が主流であったので、蘭方と呼ばれた。これに対して中国より伝来の医学を漢方と称した。
 19世紀後半より漢方は次第に衰退し、西洋医学が主流となった。ことに1883(明治16)年に医師国家試験の内容が西洋医学となり、決定的に西洋医学が医学の中心となった。しかし漢方医学の研究、臨床が完全に閉ざされたわけではなく細々と続いており、1950(昭和25)年には、約100名の同士により、日本東洋医学会が発足した。1976(昭和51)年には、漢方製剤(主としてエキス剤)が健康保健医療に導入され、今日では72%の医師が診療に漢方を用いている。まさに、日本のみの特徴であるが、医師の免許で西洋医学も漢方も自由に用いられているようになった。
【補足】漢方は確かに中国由来の生薬医学だが、現在日本で伝承されている漢方は江戸時代に日本独特の医学として発展したもの (これを日本漢方とする) 。現在の中国で継承されている中医学とは異なる。例えば防已、厚朴、当帰など、植物学的に異なる生薬を同名で呼んだりする。他にも植物中の使う部位、量、煎じの手法など、色々な差がある。

◆漢方の基本概念
日本漢方ではその基礎を陰陽学説に置き、生体の病的状態を陰陽、虚実、寒熱、表裏、気血水、臓腑理論、六病位などの概念で把握し、治療方法(処方)の手段としている。
大まかに言えば、病期を陰陽で体質体力的側面を虚実で、自覚的寒熱からの疾病の性質を寒熱、体内の病気の部位を表裏、ある種の生体バランスの失調を気血水、漢方医学的臓腑の機能低下を臓腑理論、主に熱性疾患の進行状態を六病位で把握する。
【注】“体質”は親から受け継いだ先天的な体の特徴や反応性という意味の専門用語。
“体力”は主に後天的要素で決まる生体の免疫力という意味の専門用語。
 ●証
以上のような基準による診断に病態の特異性を示す症候を加味したものを漢方医学では“証”という。証には@大分類(陰陽、虚実、寒熱、表裏)、A中分類(舌証、脈証、腹証など)、B小分類(柴胡剤の証、麻黄剤の証など)、C最終的な証(小柴胡湯の証、麻黄湯の証など)がある。漢方医学では、患者を五感で診察し、大分類から小分類へと各証の分類基準に従って証を順々に決めてゆき、得られた最終的な証に対応する薬を処方することになる。
【注】最終的な証は上記例のように薬の名そのままなので、証という概念は病気の診断であり、同時に治療の指示であるということができる。診断がそのまま治療の指示になるというところは漢方医学の特質である。


 ●気の思想
“気”とは地球環境に普遍的に存在するエネルギーであって、生命活動を営むすべての生物は、この“気”が閉鎖空間を形成したものと考える。例えば天気、空気、電気、磁気、景気、などの“気”の付された用語はいずれも不可視のエネルギーを表現した用語である。


 ●気血水論
この“気”の思想は漢方医学の病態把握の第一層を形成しており生体の変調を気の量、あるいはその流通障害としてとらえるのである。我々の人体においては、気の一部が液化し、生体の構造を形成し、維持すると考えている。赤色の体液を“血”、無色の体液を“水”という。生体を“気・血・水”の三要素でとらえる病態把握法を“気血水論”という。
 気は上昇、変動する性格を、血水は停滞もしくは下降する性質を持つとされている。人間の体は気血水がバランスを取り、互いに循環していれば、健康な状態と考えられている。しかし、一度その動的平衡が崩れると、気血水はその持っている性格に戻ろうとする。すなわち気は上昇、変動しようとし、血水は停滞もしくは下降する。それが以下の変調へとつながる。
  ○気の変調
   ☆気逆(上衡ともいう)
 いわゆるのぼせ症で、於血(後述参照)も関与する。発作性の冷え、のぼせ、動悸、頭痛、げっぷ、発汗、不安や焦燥感がみられる。
   ☆気滞(閉塞、気鬱ともいう)
 気が閉塞する部位により、様々な症状が現れる。症状は、頭が重い、咽頭が詰まる、胸脇が痛む、腹が張る、四肢が痛む、などである。
   ☆気虚
 気は上昇すると記載したが、上昇する力さえないのが気虚である。気虚は生命活動の衰えであり、だるい、疲れる、気力が出ない、食欲がないなどが主な症状である。
  ○血の変調
   ☆於血
 血が停滞することを於血という。口乾、色素沈着、唇や舌の暗赤色化、痔、月経異常、種々の疼痛などの症状がみられる。
   ☆血虚
 血の性格はその停滞性と冒頭に記載したが、停滞するものが少ないのが血虚である。この原因として、各種の出血、消耗性疾患、悪性腫瘍、薬剤の副作用などがある。血虚の症状として、貧血、顔色不良、過少月経、皮膚のかさつき、髪が抜けるなどがある。
  ○水の変調
   ☆水毒(水滞ともいう)
 血以外の体液が本来あるべきところへ過剰に存在するか、本来ない場所に存在する病態。
浮腫、水様性分泌物、尿量の異常、水様性下痢、めまい、立ちくらみ、頭が重い、悪心、嘔吐などの症状が見られる。
 ※なお、気血水の異常は単独で存在することは少なく、多くは気血水の絡み合いの中で病状を呈していることが多い。


 ●心身一如
前述のように、“気”は人間を人間として存在させている基本的要素である。したがって、人間の心の働きも、身体の構造と機能もすべて、“気”によって支えられていると考える。これを“心身一如”という。この視点は、近代自然科学を基礎とするために精神と身体を二元的にとらえ身体を物質側面に偏る見方をする西洋医学に足りないものであり重要である。


 ●陰陽論
古代中国の哲学思想に、陰陽論と呼ばれるものがある。自然界に生じる様々な事象の中に陰と陽の二面を見出すものである。漢方医学では陰陽論が人体に応用され、陰陽論が病態把握の第二層を形成している。性別:女は陰、男は陽。体質体力:虚(弱い)は陰、実(強い)は陽。自覚的温感:寒は陰、熱は陽。病的症状の発症:慢は陰、急は陽。等々。
 この陰陽二元論が、以下に説明する陰陽、虚実、表裏、寒熱などの二元的病態把握法の発想の原点である。
【注】陰陽論と陰陽は、完全には不可分な概念だが、区別して考えたほうが分かりやすい。陰陽は虚実、表裏、寒熱と並ぶ概念で、病期をしめす証である。陰陽説は、それより高次の概念で、人体の性質をいろんな点から陰に対応する性質、陽に対応する性質の二面で分類できると主張する説。陰陽、虚実、表裏、寒熱はこの一般概念の具体的応用。
○陰陽(六病位)
病期を示す証。陽証は血気が十分にあり、病邪(☆専門用語で病気の原因の総称)に対する闘病反応が積極的な時期である。体温が上昇して熱性傾向を帯びる傾向があり、体力の充実した人が罹患した時になりやすい。陰証は血気が不足気味で、病邪に対する闘病反応が沈滞気味な時期である。体温上昇は十分でなく、かえって低下する傾向にある。痩身で無力様の人が呈しやすい。
 六病位は陰陽をそれぞれ三分して得るさらに細かく六つに病期を分類する考え方である。
ここでは、煩雑さを避けるために、具体的説明は省くことにする。
  ○虚実
闘病反応の強弱を示す証。同じ病邪に侵されても、個体の免疫力により闘病反応は異なる。病邪に侵されたときの闘病反応が強い証を実証、中程度の証を虚実中間証、弱い証を虚証といい、同じ病邪の場合でも方剤を使い分ける。先ほど体質体力的側面を虚実で診断すると書いたのは、体質体力によって病気に対する抵抗力、闘病能力が決まるからである。
  ○寒熱・表裏
ともに病態を示す証。よく、表熱証のようにあわせて使う。寒熱は自覚的寒熱を示す証。
寒熱は元来、主に急性熱疾患の自覚症状あるいは手足などの局所の温度を表現するだけの言葉であったと思われる。治療経験が蓄積されるにつれて、熱は冷やし、寒は暖めることにより改善される病態、証としての理解が深まっていき、表裏の概念と融合して表熱、裏熱、裏寒などとなり、慢性疾患にも応用できる病態概念へと発達してきた。寒証の人は冷感、顔面蒼白、舌苔湿潤、少口渇、透明な尿、便臭が乏しいなどの特徴を持つ。熱証の人は熱感、顔面赤色、舌苔乾燥、強口渇、濃黄色の尿、便臭が強いなどの特徴を持つ。
 表裏は体内の病気の部位を表す証。漢方医学では、皮膚、筋肉、関節、神経などの身体表層部を“表”、身体深部や内臓を“裏”、その中間の肺、肝などの横隔膜周囲の臓器を“半表半裏”と定義し、方剤を使い分けている。漢方医学では、病邪は身体の表面から侵入し、身体深部へと進むと考える。そのため、陽証期の初期には表証が、中期では半表半裏証が、陽証の後期と陰証期には裏証が現れると考えられている。そして、表証には汗とともに病邪を追い払う発想で発汗により、半表半裏証には和法(抗炎症)により、裏証には大便とともに病邪を追い払う発想で瀉法(くだし法)により、体力が疲弊して陰証になると闘病反応を高めることにより治療を行う。


 ●臓腑理論
臓腑とは機能別に分類した漢方医学的臓器の総称である。漢方医学では、臓器を実質臓器である五臓≪肝・心・脾・肺・腎≫と管腔臓器である六腑≪胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦≫に分類する。ただし、現代解剖学には三焦に当たる臓器はない。それ以外の臓腑についてもその生理機能は西洋医学よりも広い概念を持つ。この西洋医学との臓器分類の差は、西洋医学が臓器に構造や形態に器質的な異常が存在するかどうかを重視するのに対し、漢方医学が機能的な側面を重視するという差から生じている。ここでは、煩雑さを避けるため、六腑の病態については割愛し、主要臓器である五臓の病態について述べる。
  ○肝
機能:@精神活動を安定化しA栄養素の代謝と解毒を司り、B血を貯蔵して全身に栄養を供給し、C骨格筋の緊張を維持し、運動や平衡を制御する。
機能異常の兆候:@神経過敏、易怒性、いらいらA蕁麻疹、黄疸B月経異常、貧血C頭痛、肩こり、めまい、筋肉の痙攣、腹直筋の攣急、その他、季筋部が腫れて痛い
  ○心
機能:@意識レベルを保ち、意識活動を統括し、A覚醒・睡眠リズムを調節し、B血を循環させ、C熱生産を盛んにし、汗を分泌し、体温を調節する。
機能異常の兆候:@焦燥感、興奮、集中力低下、A不眠、嗜眠、眠りが浅い、夢が多い、B動悸、息切れ、徐脈、結代、胸内苦悶、C発作性の顔面潮紅、熱感
  ○脾
機能:@食物を消化・吸収し、水穀(飲み物食べ物)の気を生成し、A血の流通を滑らかにし、血管からの漏出を防ぎ、B筋肉の形成と維持を行う。
機能異常の兆候:@食欲の低下、消化不良、悪心、嘔吐、胃もたれ、腹部膨満感、腹痛、下痢、A皮下出血、B脱力感、四肢が重だるい、筋萎縮、その他、考え込む、抑鬱
  ○肺
機能:呼吸により宗気を摂取し全身の気の流れを統括し、A水穀の気の一部から血と水を生成し、B皮膚の機能を制御し、その防衛力を保持する。
機能異常の兆候:@咳、痰、喘鳴、鼻汁、呼吸困難、息切れ、胸の閉塞感、気道粘膜の乾燥、B発汗異常、痒み、風邪を引きやすい、その他、憂い、悲しみ
  ○腎
機能:成長、発育、生殖能を司り、A骨、歯、牙を形成、維持し、B泌尿機能を司り、水分代謝を調整し、C呼吸能を維持し、D思考力、判断力、集中力を維持する。
機能異常の兆候:@性欲低下、不妊、A骨の退行性変化、腰痛、歯牙脱落、B浮腫、夜間尿、目や皮膚の乾燥、C息切れ、D健忘、根気がない、恐れ、驚き、その他、白内障、耳鳴り
・臓腑理論を用いる利点
@複数の器官を総合的に認識できる。
    膀胱の機能低下による排尿障害と骨の退行性変化に伴う腰痛、耳鳴りといった何も関係がない様に見える一連の症状を漢方医学では腎の異常として総合的に認識できる。
   A病人を心身医学的に認識できる
心身一如に基づいて五臓の機能が考えられたため、精神活動を含めた病人認識が可能。
   B病人を全人的に認識できる
人間の生命活動全体のバランスは、五臓間の相互抑制or促進作用によって維持されている。例えば、脾の働きが衰えているときには、脾を促進する心の働きが低下している可能性や、脾を抑制する肝の働きが亢進している可能性がある。このように機能単位間の相互拮抗関係を考慮することで、病人を一つのシステムとして全人的に認識できる。


◆漢方医学の診察法
漢方医学には望、聞、問、切の4種の診察法があり、これを四診と呼んでいる。医師の五感による診察法で、いわゆる“証”を決定し、漢方を指示する具体的な手続きを通じて行う診察法である。問診は患者または家族などとの問答によって、患者の愁訴とその背景因子を知ることをさし、切診の“切”は“接”すなわち“触れる”という意味で、医師が直接に自分の手を患者の体に接触して診察することをいう。脈診や腹診、背診(背診は現在日常的には行われない)がこの切診の中に含まれる。
 実際の診療に当たっては、これらの診察法は、相互に密接な関係にある。各診察によって得られた情報を整理し、取捨選択して、総合的にとらえ、これを使用する処方や生薬の目安として決定していくのが漢方の診断である。


●望診
視診。体格・体形・表情・色艶・眼力などを診る。舌の所見は舌証と呼ばれ、特に重視される。舌証は舌形、舌色、舌態、舌苔で判断される。(ここでは舌証の詳細説明は省く)例えば、体格が良いのは実証と判断する条件の一つだし、活力がある、汗が出ない、眼力が強いなども、実証の特徴である。


 ●聞診
聴覚と嗅覚から得られる診察をいう。声の勢い、咳、お腹のなる音、体臭、喘鳴、口臭などを調べる。例えば、声が大きくて張りがある、話がきびきびしている、咳が力強いなどは実証の特徴。逆に細い、力のない声でぼそぼそとしゃべるのは虚証の特徴である。


 ●問診
質問項目例:@全般(疲れやすい、風邪を引きやすい、些細なことが気になるなど)
A大便B小便C食欲D睡眠E汗F寒熱(寒がる、冷える、のぼせるなど)G口腔(口が粘る、唾液が多い、のどが渇いてよく水を飲むなど)H頭(頭痛の有無、めまいの有無など)
I顔、目(しみが出る、目が疲れるなど)J耳、鼻、のど(耳鳴、鼻水、のどのつかえ感など)K肩、胸、腰(肩がこる、痰が多い、動悸がする、腰が痛いなど)L腹(げっぷが出る、胸焼けの有無、腹が張るなど)M皮膚(おできや吹き出物が出る、皮膚がかさかさする、冬にはあかぎれができるなど)N関節、四肢(関節の痛みがある、足がむくむ、ものにつまずきやすいなど)O月経Pアレルギー(今までに内服薬や注射で発疹などのアレルギー症状が出たことがある)
※このように全身の異常をくまなく把握するのが漢方の一つの特徴である。


 ●切診
通常行われるのは、脈診と腹診である。急性疾患は脈診が重視され、慢性疾患では腹診が重視される。脈診では脈の深さとして浮沈、脈の強さとして虚実、脈の緊張として緊緩、脈の回数として数遅、脈の滑らかさとして滑渋が判断され、証決定に重要な情報となる。
腹診では、腹力、腹のガスの溜り具合、心窩部(みぞおちのこと)の抵抗などを調べる。その他多くの兆候を見るが、専門的になりすぎるためここでは省く。腹診の主眼は、全身の状態としての虚実を診ること特定の腹証を把握することで生薬や処方の判断材料の一つとすることにある。

不老不死への科学