第2章 〜風邪〜
2.1 風邪と言っても…
どのような時「風邪を引いた」と思うだろうか? 寒気がする、喉が痛い、鼻水が滴る、頭が重い、痛い、腹が痛い時である。季節は冬が主だが、季節の変わり目にも風邪を引くことが多い。インフルエンザの流行に図らずも乗ってしまったり、花粉症で鼻が詰まった結果、口呼吸になって喉をやられたり、梅雨時、就寝の際には暑かったのに明け方に急に冷え込んで腹をやられたりする。他にも季節に関係なく、汗をかいたのを放っておいたり、残業が続いて体力が弱っていたり、精神的に参ってしまったり… このように風邪の症状のみならずその要因も様々。しかもそれに加えて人の体質は様々である。漢方の根本には「人体は各所で互いに影響し合うバランス体であり、体内のみならず自らの存在する自然界とのバランスを保って生きている」という考え方がある。病気は体内のバランスの崩れ、あるいは自然界の流れとのズレと考えられており、風邪はそのごく一部であるから、治療の際にも個々人の体を一つのバランス体として捉え、元来そのバランスはどうなっていたか(体質)、どう崩れたか(病因)、今どうか(症状)、どうなっていこうとしているのかという流れを把握するのが治療の第一歩であり理想である。故に風邪薬と一言で言っても体質によってその効き方は千差万別であり、病因によっては同じ薬を服用しても悪化してしまうこともあり、症状に合えばそれで良いという簡単なものではない。(自らの身を修めるのは国を治めるのと同様であり難しいもの…) 故に、「風邪は万病のもと」と言い引き始めに治すのが基本となる。そこでここでは自分が風邪の引き始めに飲んでいる生姜湯について詳しく述べたいと思う。もちろん生姜湯を飲んで治らないこともあるのであしからず。
2.2 生姜の禁忌
「本品辛温、対于陰虚内熱及熱盛之証忌用」。つまり、生姜は刺激性で発汗を促し、体を温める性質のものなので、体力的にかなり弱った結果身体に熱がこもっている際、並びに発熱がひどい際は服用しない。
2.3 生姜湯の作り方
生姜をすりおろして蜂蜜か黒砂糖を加え、熱湯を注ぐ。葛粉でとろみをつけるとのどに良いと思われる。熱湯を注ぐのではなく水に溶いて煮込むと生姜のきついのがまろやかになる。砂糖、黒砂糖、蜂蜜の代りにカリン、レモン、柚子などのスライス、味噌とネギ、大根おろしを入れるのも良いようである。
2.4 生姜について
2.4.1 中医学的側面
生姜単独の効能は次の三点である。「発汗解表」、汗をかかせて未だ浅い段階の風邪を発散させる。「温中止嘔」、身体を中から暖めて吐き気を抑える。「温肺止咳」、肺を温めて咳を止める。また、臨床では以下の三点のように使用される。「用于外感風寒、悪寒発熱、頭痛、鼻塞等証。本品辛散発表、可加入辛温解表剤中、増強発汗効果、如桂枝湯方剤均有本品。軽微感冒、可煎湯加紅糖熱服」、長い間風に当たったり寒い所にいたりしてゾクゾクと寒気がしたり(悪寒は表つまり風邪が未だ浅い段階であることの指標)発熱した場合や、頭痛や鼻づまりの症状がある場合には、生姜は刺激性のもので浅い風邪は発散する作用があるから、他の刺激性で体を温める作用のある薬に加えることが出来て、発汗作用を増強する。例えば桂枝湯(後注)のような薬には生姜が入っている。軽いうちの感冒には、湯で煎じて黒砂糖を加え熱くして飲むのが良い。「用于胃寒嘔吐。能温胃和中、降逆止嘔。随配合之不同、可用于多種嘔吐、常与半夏同用治胃寒嘔吐、即小半夏湯;若熱証嘔吐、可配合竹茹、黄連等同用」、腹が冷えた結果吐き気を催した際用いる。腹を温めて吐き気を抑える。配合量を変えて多種の嘔吐に用いることが出来、常に半夏と併用して腹冷えによる嘔吐に用いる、これを小半夏湯という。激しい発熱を伴う吐き気に対しては、竹茹、黄連を併用する。「用于風寒客肺的咳嗽。有温肺除痰止咳之効、常配合其他散寒止咳薬用」、体中をめぐる風邪が肺にとどまった時に出る咳に用いる。肺を温め、痰を切り、咳を止める作用があり、他種の寒気を抑える咳止め薬と併用される。
(注)
桂枝湯:桂枝、炙甘草、白芍、生姜、大棗から成り、主に外感風寒表虚証に効く。
小半夏湯:半夏、生姜から成り、主に腹を冷やした時や冷たいものを飲んだ時の嘔吐に効く。
2.4.2 成分的側面
生姜の精油成分は0.25〜3%でα-zingiberene(主)、β-camphene(副)、α-pinene, 1,8-cineol、β-phellandrene,myrcene、α-curcumene、β-sesquiphellandrene、galonolactoneを含有する。辛味成分は0.6〜1%で〔3〕〔4〕〔5〕〔6〕(主),〔8〕〔10〕S-(+)-gingerol、その加熱産物としてのshogaol, dehydrogingeroneを含有する。〔6〕-gingerol、〔6〕-shogaolに中枢抑制、抗潰瘍、抗アレルギー、強心作用、〔8〕-gingerol、〔6〕-shogaolに鎮吐、胃液分泌抑制作用、〔6〕-gingerol、〔6〕-dehydrogigerdioneにプロスタグランジン生合成阻害作用、また、〔8〕-gingerol、〔6〕-shogaolに腸管輸送能の亢進、抗炎症作用が認められる。
2.5 風邪を味方に
「万病のもと」、風邪は個々人の体質・性格・生活環境など様々な要因に左右される。まず大事なのは、既に言い古されている感はあるが、自分を良く知ることである。体質・性向・生活環境・人間関係など、一見無関係に見えることを含めて自分を見つめ把握しようと努めることが大切となる。次に大事なのは、嫌な奴・敵だと思い込んでいる風邪を上手に利用することである。直ぐ治る程度に風邪を引く、上手に風邪を引くのは害というよりむしろ体を活性化する刺激となり有益である。また、風邪は弱いところに症状が出るので自分の体を見つめ直す上で良い材料となるだろう。身体を含め自分を見つめ、活性化剤として上手に風邪を利用する。漢方をその際の手助けとするのが漢方との良い付合い方だと思う。