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第5章 〜肝臓・腎臓の疾患〜

5.1 概要
 「五臓六腑」という言葉の「五臓」とは肝、心、脾、肺、腎のことで、このうち肝と腎は肝臓、腎臓とそれぞれイコールの関係ではないが、大きな関係がある。一方、西洋医学の立場でも、肝臓や腎臓は解毒系をはじめ、その機能の重要性はよく認知されている。このように、東洋・西洋を問わず重要視され、昔から研究されてきたのが肝臓や腎臓であり、症状にあわせた様々な薬も開発されたり使用されたりしている。

 しかし一方で、これらの臓器の疾患について見ていくと、近年では肝炎や肝硬変、腎不全などの疾患名をよく耳にし、平成12年度の死因の8位が腎不全、9位が肝疾患と、決して無視できる疾患ではないことが分かる。

これらのことを踏まえ、肝臓や腎臓の疾患を幾つかの具体例を挙げつつ、西洋と東洋の疾患へのアプローチの仕方の相違や西洋医薬と漢方薬の作用の相違などを見ていくことにする。

5.2 代表的な肝臓の疾患と薬
(1) 「肝臓」と「肝」
 「概要」でも述べたが、東洋医学のいう「肝」と西洋医学のいう「肝臓」とは必ずしも一致しない。それは「肝臓」が臓器であるのに対し、「肝」とは血液やエネルギーを全身にいきわたらせる機能のことを指すからである。そのため、肝臓の疾患といえば例えば肝炎や肝硬変などの肝臓に関する疾患の事をさすが、肝の疾患といえば自律神経失調症や高血圧、さらには女性の生理の疾患なども含まれるのである。ここでは話を分かりやすくするために「肝の疾患」と「肝臓の疾患」を同じものとして扱う。

 肝臓の疾患といえば肝炎、肝硬変を思い浮かべるのではないか。今回はこの2つの疾患を例に挙げ、東洋と西洋の治療の差を見ていくことにする。

(2)肝炎
 肝炎とは肝臓組織の肝細胞がウイルスや寄生虫などの影響により変質・死亡し、白血球の炎症反応が起きる症状のことである。症状としては発熱、全身倦怠感、食欲低下、胃部不快感、嘔吐、黄疸といったものがあり、主にウイルスにより起こる肝炎のことを急性肝炎、肝炎が6ヶ月以上と慢性的に続けば慢性肝炎という。急激に広範な肝細胞の破壊が起き、急性の肝不全状態となると劇症肝炎といい、死亡率約80%である。急性肝炎の治療の間に肝炎が進行していくと劇症肝炎となることが多い。

 急性肝炎の原因となるウイルスは7種類確認されており、その他に数種類存在が推定されている。このなかでもA型肝炎ウイルスは経口で感染し潜伏期間が2〜6週間で、発症から1〜2月で治癒することが多い。一方B型肝炎ウイルスは血液を介して感染し、潜伏期間は1〜3ヶ月、発症後2〜3ヶ月で治癒することが多いが慢性化することもある。症状はA型ほど悪化しない。C型肝炎ウイルスはB型肝炎ウイルスと同じく血液感染するが、症状が軽いことが多いため気づかれにくく、慢性化もしやすい。

(@)漢方による治療
 漢方での治療は「この病気だからこの薬で治す」という発想ではなく、「この薬で治るからこの病気である」という発想をする。そのため、肝炎に対してどの漢方薬を使うか、ではなく、症状にあわせてそれを改善する漢方薬を使うのである。肝炎の症状は発熱、全身倦怠感、食欲低下、胃部不快感、嘔吐、黄疸であったからこれを改善するのである。

・小柴胡湯…体力がやや低下した人向けで、食欲不振、胃腸虚弱、疲労感などに対して効果がある。他に風邪の後期の症状全般に効果がある。抗炎症作用、肝細胞膜の保護作用のある漢方薬で、インターフェロンとの併用で肺炎を引き起こすので禁忌である(3.2、4.2、6.2を参照) 。

・大柴胡湯…比較的体力がある人向けで、胃炎、胆嚢・肝機能障害などに効果がある。他に便秘、高血圧に伴う肩こり・頭痛・便秘、などにも効果がある(3.2、4.2、6.2を参照) 。

・柴胡桂枝湯…体力がやや低下した人向けで、腹痛を伴う胃腸炎、熱、寒気、吐き気などに効果がある。また、風邪の後期の症状にも効果がある(3.2、4.2を参照) 。

・補中益気湯…体力がない人向けで、虚弱体質、疲労倦怠、病後の衰弱、食欲不振などの症状に効果がある。(黄ギ、人参、白朮、当帰、柴胡、大棗、陳皮、甘草、升麻、生姜)。(6.2、7.3を参照)

・八味地黄丸…体力がない人向けで、疲れやすい人に効果がある。そのほか、四肢が冷えやすく、尿量減少または多尿でときに口渇がある下肢痛・腰痛・痺れ・老人のかすみ目・かゆみ・排尿困難・頻尿・むくみにも効果がある(4.2を参照) 。

(A)西洋薬による治療
ウイルスが原因で起こる急性肝炎の治療には抗ウイルス薬がよく使われ、他にも抗炎症剤や免疫調整機能を持つ薬などが使われる。

 抗ウイルス薬としてはインターフェロンが有名である。インターフェロンはウイルスに感染した時に体内で作られる抗ウイルス性タンパクで、ウイルスの増殖を抑える作用(RNA分解酵素を感染細胞に作らせる)を持つ。また、C型肝炎ウイルスに直接作用する(遺伝子としてRNAをもつ)ので特にC型肝炎の治療薬としてよく用いられる。他にはラミブジンと呼ばれる薬も使われる。これは逆転写酵素の阻害剤であると同時にDNA複製の阻害剤であり、B型肝炎ウイルスの増殖をとめる働きがある。ウイルスに直接作用するので効果が期待できるが耐性を持つ変異株が出来やすいなどの欠点もある。

 そのほか補助療法として、抗炎症剤や免疫調整機構としてのグリチルリチン、肝血流量増加や利胆作用としてのウルソデスオキシコール酸も使われる。

(3) 肝硬変
 肝硬変とは慢性肝炎が進行することで、肝細胞の破壊が進み、壊された肝細胞が繊維状になって固まり、肝臓が硬くなった状態をいう。肝硬変になると正常な肝細胞の数が減るため肝臓の機能低下が起こり、はじめのうちは正常な細胞の数で機能をまかなえる(代償期肝硬変)が、正常な細胞が減りすぎると機能をまかなえなくなり(非代償期肝硬変)、様々な症状や他の合併症が現れる。主な症状としては全身倦怠感、腹部膨満感、食欲不振、女性化乳房、手掌紅斑、くも状血管腫など、合併症としては、腹水、肝不全や食道静脈瘤などがある。

 日本では肝硬変は主にC型肝炎をはじめとする慢性肝炎から悪化してなるパターンが多く、他にはアルコールの摂取過多によりなることもある。

 一度肝硬変になると完治することはなく、治療は主にQOL(生活の質)を保ちつつ肝硬変の進行を食い止め、症状の改善と合併症の治療を行うことに主眼が置かれる。

(i) 漢方による治療
 慢性肝炎から肝硬変になることが多いことから、基本的に使う薬は同じになる。

・茵ちん蒿湯…肝硬変に伴う胆汁うっ滞や黄疸の症状改善、黄疸のかゆみの和らげ、肝臓の繊維化の食い止めなどに効果がある。(茵ちん蒿、山梔子、大黄)。

・小柴胡湯…((2)肝炎を参照)
・大柴胡湯…((2)肝炎を参照)
・柴胡桂枝湯…((2)肝炎を参照)
・補中益気湯…((2)肝炎を参照)
・八味地黄丸…((2)肝炎を参照)
・桂枝茯苓丸…本来は更年期障害や生理周期異常と生理痛による頭痛、めまい、のぼせ、肩こり、足の冷えなどの症状改善や子宮とその付属器の炎症抑制、打撲症、痔疾患、睾丸炎、腹膜炎などの炎症抑制などに効果がある漢方薬だが、肝細胞の繊維化の進行抑制に効果が期待できる。(桂皮、牡丹皮、桃仁、芍薬、茯苓)。(6.2を参照)
・五苓散…水分の代謝に関係するむくみ、口渇、下痢、嘔吐などの改善、めまいや頭痛の緩和、利尿作用などがある。合併症である腹水の治療に効果が期待できる(3.2、4.2を参照) 。

(ii) 西洋薬などによる治療
 先ほど述べたように肝硬変の治療は主として症状の改善と合併症の治療であるため、そのための薬が用いられ、そのほかには食事療法などが取られる。

腹水とは文字通り腹に水がたまり、あたかも蛙の腹のように腹が膨らむことである。腹水の治療は安静と食事制限(取水制限と塩分摂取量の制限)がよく用いられ、これだけでもかなりの症状改善が望める。治療薬としては利尿薬や、それでもだめならアルブミン投与が用いられる。これらの処置により余分な水分を体外に排出し、腹水の改善が望める。ほかに、β遮断薬は心収縮力を低下させることで心拍出量を低下させ、門脈流入血液量を減少させることが出来、肝臓の負担低下を望める。

食道静脈瘤とは肝臓から逆流した血液が静脈内で瘤を作り、ついには静脈を破裂させることにもなる病気である。これは外科的な治療が一般的で、静脈を圧迫して血液が逆流しないようにする弾性ストッキングや、静脈瘤を手術により取り除く治療などがあるが、硬化剤と呼ばれる静脈を密閉する薬も使われる。静脈を密閉することで静脈瘤を目立たなくさせ、静脈瘤の影響を小さくさせることが出来る。

肝性脳症は肝臓機能の低下によりアンモニアの分解が出来ず、それが脳へと運ばれて精神症状を起こす病気である。食事制限でタンパク質の摂取量を抑えることでアンモニアの生成を抑制したり、薬物療法などが用いられたりする。薬物としてはラクツロースという一種の緩下剤を用い、腸内の有害な細菌を抑えて、排便を促し、腸内を浄化する。また、アンモニアの産生を促す細菌を殺すための抗生物質、あるいはアミノ酸バランスを調整する特殊アミノ酸製剤なども使われる。

なお、肝硬変が進み、これらの薬物を使用しなくてはならなくなる時はすなわち肝臓機能が低下している時であるから、薬物の使用量は減らし、様子を見ながらすこしずつ投与していくことになる。

5.3 代表的な腎臓の疾患と薬
(1) 「腎臓」と「腎」
 「肝」は血液やエネルギーを全身にいきわたらせる機能のことを指すのであった。同様に「腎」は精、すなわち生殖や成長発育を維持する基本物質を貯蔵し、臓腑と各組識を滋養する機能を持つとされ、西洋医学でいう内分泌系や神経系、泌尿生殖器系などが含まれるとされる。ここでも先ほどと同様に「腎臓」=「腎」と考えて、腎臓の疾患に対する東洋と西洋の治療の差を見ることにする。具体的に取り上げる疾患は腎炎、ネフローゼ症候群とする。なお、腎臓の疾患としては腎不全が有名であるが、治療としては透析などの非薬剤的なアプローチが取られるため、取り扱わない。

(2)腎炎
 腎炎(急性腎炎)は糸球体に急性炎症が起こる病気であり、溶血性連鎖球菌やその他の細菌が扁桃炎などの感染を起こした後に生じる。細菌の成分が抗原となり、抗体ができて抗原抗体反応が糸球体で起こる結果、腎炎が起こる。

 発熱やのどの痛みなどの症状が起き、治ってから1週間ほどで発症するが、初期症状は尿が濃くなり尿量が減ることや時に血尿を出すこと、まぶたがはれてくることなどである。そのうち、倦怠感や食欲不振、多くの例では高血圧、むくみなどの症状を伴う。子供ではけいれん発作を起こしたり、左心不全を生じて呼吸困難を起こしたりすることもある。予後は90%以上が1〜2ヶ月のうちに完治する。

(@)漢方による治療
 肝炎の時と同様に倦怠感の改善やむくみの除去などのために用いる。
・柴苓湯…炎症性疾患の炎症抑制、むくみの除去などに効果あり。急性感染症や暑気あたりによる下痢、胃腸炎、口渇などの改善などにも効果がある(4.2を参照)。
・当帰芍薬散…むくみ、疲労感、倦怠感といった症状の緩和に効果がある。貧血、動悸、冷え、貧血、動悸、頭痛などの痛みにたいしても使われる。(芍薬、蒼朮、沢瀉、茯苓、川きゅう、当帰)。
・八味地黄丸…(5.2(2)肝炎を参照)
・牛車腎気丸…老化に伴う全身各組織の機能低下の補助、排尿困難・多尿・頻尿・排尿痛などの改善、腰痛・下肢痛・痺れなどの症状の緩和、むくみ・かゆみなどの皮膚の症状の緩和、老人の目のかすみなどの症状の改善に効果がある。(地黄、牛膝、山薬、山茱萸、車前子、沢瀉、茯苓、牡丹皮、修治附子末、桂皮)。
・小柴胡湯…(5.2(2)肝炎を参照)

(A)西洋薬による治療
 腎炎の治療としてまず取られるのは安静と食事療法である。安静にすることで腎臓の負担を減らし、タンパク質や食塩の摂取量を抑えて腎臓機能低下状態でも支障がないようにする。

薬物療法としては腎炎そのものを治す薬はないためあくまでも補助的な役割となる。急性腎炎のきっかけとなった溶連菌などの感染症の治療に対して抗生物質を使用し、炎症をしずめるために抗炎症剤、血尿がひどいときには止血剤、乏尿やむくみがひどいときには利尿剤が使われる。また、高血圧治療のために血圧降下剤も用いられる。これも肝硬変の時と同様に腎臓の負担とならないように、負担の少ない薬の使用や使用量の調整が求められる。

以上のように安静や食事療法、薬物療法でも腎炎が進行する場合は抗炎症作用と免疫抑制作用がある副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)や、免疫抑制剤が使われる。また、尿中のタンパク質が1日に1gを超えるような場合には、抗血小板剤が使われる。

(3) ネフローゼ症候群
 ネフローゼ症候群とは糸球体から大量のタンパクが濾過されて尿中に排泄され、その結果血清たんぱくが減少し、低タンパク血症、むくみや高脂血症を生じる疾患をさす。腎炎が原因でネフローゼ症候群になるものと、他の全身性の疾患により腎臓の糸球体が病変しネフローゼ症候群になるものとがある。

 症状としては上記のとおり、低タンパク血症、むくみ、高脂血症のほかに、倦怠感や腹水や息切れ、呼吸困難、吐き気や嘔吐、免疫低下、動脈硬化、ビタミン欠乏症や栄養不足による発育不良や脱毛などが挙げられる。

 予後は症状の進行具合、腎臓の損傷の度合いなどにより治るものと腎不全まで至るものとがある。一般に小児は約半数が完治するが、成人では完治する割合は激減する。このように治りにくいネフローゼを難治性ネフローゼといい、患者のQOLを著しく下げることになる。

(i) 漢方による治療
 ネフローゼ症候群の場合も腎炎の時と同様の漢方薬を使用することが出来る。その他に、ネフローゼ症候群は慢性化しやすいことから体力の回復などに効果のある漢方薬も用いられる。

・柴苓湯…(5.3(2)腎炎を参照)
・当帰芍薬散…(5.3(2)腎炎を参照)
・八味地黄丸…(5.2(2)肝炎を参照)
・牛車腎気丸…(5.3(2)腎炎を参照)
・小柴胡湯…(5.2(2)肝炎を参照)
・十全大補湯…術後・病後・産後・慢性疾患による消耗・疲労の蓄積などで衰弱した人の全身倦怠感、貧血、食欲不振による症状の回復や、体力の増強などの症状の緩和に効果あり。(黄耆、地黄、芍薬、桂皮、蒼朮、当帰、川きゅう、茯苓、甘草)。
・人参養栄湯…術後・病後・産後・慢性疾患による消耗・疲労の蓄積などで衰弱した人の疲労倦怠、食欲不振、貧血による症状の回復、体力の増強などの症状の緩和に効果あり。(白朮、地黄、当帰、茯苓、人参、桂皮、遠志、芍薬、陳皮、黄耆、甘草、五味子)。
・補中益気湯…(5.2(2)肝炎を参照)

(ii) 西洋薬などによる治療
 ネフローゼに対してまず取られる治療法は安静にし、食事制限をすることである。塩分やタンパク質の摂取量を制限し、体に負担にならないようにする。

 薬物療法としては、むくみに対しては利尿剤、血中のタンパク質量が減少するのでアルブミン製剤の投与(ただし、効果が薄いのであまり使われなくなった)、ネフローゼでは血栓が出来やすいのでそれを防ぐ抗血小板剤、ビタミンも失われるのでビタミン剤も投与される。

ネフローゼそのものに対する薬物療法としては副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)や免疫抑制剤がよく使われる。ステロイド剤は通常経口投与するが、重症例に対してはまず静脈注射で3日間大量に投与され、その後経口投与となる。このように3日間の大量投与をパルス療法といい、この後で効果が出てきたら投与量を一定量まで減らす。これで効果がなければ免疫抑制剤の投与が平行して行われる。

5.4 漢方薬と西洋薬
肝臓、腎臓という2つの、人体にとって非常に重要な働きをする臓器に対する疾患とそれの治療薬を見てきた。

繰り返し述べることになるが、漢方薬は患者の体調・体質・症状にあわせて薬を処方し、一方の西洋薬では、疾患から薬を処方する。この差により、例えば漢方薬では同じ薬を肝臓と腎臓の両方を治癒する薬として用いるし、他には胃腸の症状も改善する薬を肝臓や腎臓の疾患に対して用いる、という西洋薬では考えられないような投薬をする。なぜ「考えられない」か、ということを考えるとそこに東洋と西洋の違いを見ることが出来る。

まず私たちが普段慣れ親しんでいるであろう西洋薬、そして西洋医学の診断を見ると、多くの人が知っているようにミクロをとらえるものであるといえる。疾患の原因を細かく見ていき、その疾患の作用機序に何らかの影響を及ぼす物質を薬として用い、疾患そのものも、どの臓器のどこがどのように悪いのか、と細かく見て診断をする。このような特徴のため西洋薬は作用機序がはっきりしており、単体の物質が疾患に対して直接作用する。

逆に漢方薬、そして東洋医学では病気をマクロにとらえる。患者の体調・体質といったマクロな要素から漢方薬を処方し、その漢方薬も単体の物質からなるのではなく、複数の物質がそれぞれ異なる作用を示すことで広範囲にわたる薬能を示す。作用機序は必ずしも明確ではないが、長い歴史の中で培われた経験により証と呼ばれる診断基準に基づきその患者にとって効果的な投薬がなされる。

以上のような違いから漢方薬と西洋薬の違いも分かる。成分が単体であるか、複数であるか、という違いから生まれるものは作用・副作用の強さである。よく「漢方薬に副作用はない」といわれる。これは決して正しい表現ではないが、しかし西洋薬ほど副作用を意識しないという点では正しいであろう。西洋薬では単体の物質を用いるため、効果はテキメンに現れるが、その分副作用もはっきり現れる傾向にある。一方で漢方薬は作用がはっきりと即効性を持って現れることは少ない。しかし逆に複数の物質を混ぜる漢方薬には副作用を打ち消すための物質も含まれることがあり、そのために副作用が西洋薬ほど顕著にならないのである。この点から見れば西洋薬は急性の疾患に対する特効薬として、漢方薬は慢性疾患の長期にわたる治療に対してそれぞれ特に効果的であると考えられる。もっとも、適材適所というように長期の治療に西洋薬が必要になることもあるであろうし、その逆もまたしかりである。併用すれば効果が上がると考えられるものもあれば(例;ネフローゼ症候群に対する柴苓湯とステロイド剤)、併用してはいけないものもある(例;肝炎に対するインターフェロンと小柴胡湯)。薬剤師などの専門家の指示に従って使っていく必要があるといえよう。

不老不死への科学