第3章 ~健康食品各論~

これまでの章では、健康食品の基本的な分類と市場等について述べてきた。本章では、国内外で人気のある健康食品(表2-1、表2-3-2参照)の一部を具体的に取り上げ、1.その成分がどのようなものか、2.何に効くといわれているか、3.どのような作用機序で効くと言われているかについて述べる。また、摂取時の注意点や最近発表された論文の紹介など、健康食品を利用する際に役立つ情報も盛り込んだ。作用機序が十分解明されていないものもあるが、現時点においてできるだけ正しい情報を選び、科学的な論拠に基づいて記述することに努めた。

3.1 αリポ酸
αリポ酸とは、体内に存在する補酵素の一種で、つい最近、日本で医薬品以外での使用が認可された。一番代表的な働きとしては抗酸化作用があり、ビタミンCやEの400倍とも言われている。その他にも糖の代謝効率を上げる働きがあるなど、その様々な効果から今、サプリメントとしてとても注目されている物質である。

3.1.1 αリポ酸とは?
αリポ酸とは、別名チオクト酸とも呼ばれ、体内のほぼどの細胞にも存在する補酵素である。体内では微量しか作られず、一日の必要量約100mgを食品から摂るのは不可能な位食物にはほとんど含まれていないため、サプリメントとして摂るのが一番良いとされている。欧米では90年代からサプリメントとして使われて広まっていたが、日本では医薬品にしか使われていなかった。ところが、2006年6月に医薬品以外での使用が認可され、テレビ番組での紹介も相まってここ数ヶ月でサプリメントとして大きな注目を浴びている。

3.1.2 αリポ酸は何に効くと言われている?
αリポ酸には、主に2つの働きがあると言われている。1つは、俗に言うアンチエイジングである。年をとると、体の色々な所で不具合が生じてきたり、また肌にもシミが増えたりする。αリポ酸には、そういった老化現象を抑える働きがあると言われている。
2つ目はダイエット効果である。特に、Lカルニチンという物質と一緒に摂取すると効果的といわれていることから、ダイエットを目的として、Lカルニチンと一緒になったサプリメントが多い。

3.1.3 αリポ酸はどのように効くと言われている?
体内で発生する活性酸素は、体組織を色々な所で傷つけ、これが肌のシミであるとか老化に関係するのであるが、抗酸化作用によって活性酸素の働きを抑え、結果老化現象を抑制する。αリポ酸は強力な抗酸化作用を持つ。その強さは、体内の代表的な抗酸化物質であるビタミンCやEの400倍とも言われている。また、これらのビタミンの抗酸化力を補強する働きもあると言われている。

次にダイエットについてである。これは、αリポ酸が糖の代謝効率を高めてくれる効果による。具体的には、糖が解糖系においてピルビン酸になり、そこからミトコンドリア内でアセチルCoAに変換される際にαリポ酸が補酵素として働く。つまりαリポ酸が充分にあることでエネルギー代謝が活発になり、そのために糖が脂肪に変換されることが抑えられ、結果脂肪が減る訳であるが、その順番はまず内臓脂肪で、次に皮下脂肪であるため、サプリメントとして摂った場合、内臓脂肪の多い男性は約2週間で効果が現れるが、皮下脂肪の多い女性は、効果が出るまで約3週間だと言われている。ちなみにLカルニチンと一緒に摂ると効果的だと言うのは、Lカルニチンには、ミトコンドリア内へ糖を運び入れる働きがあるからである。Lカルニチンによって積極的に糖をミトコンドリア内に運び入れ、αリポ酸の助けによって効率よくアセチルCoAに変換することで、エネルギーの代謝がさらに効率良くなる訳である。

3.2 ラクトフェリン
ラクトフェリンは花粉症、C型肝炎などに効く多機能性糖タンパク質である。

3.2.1 ラクトフェリンとは?
ラクトフェリンは、哺乳動物の乳・涙・唾液・胆汁などの分泌物中に存在する、分子量約8万の鉄結合性糖タンパク質。出産後初めて出る“初乳”に多く含まれる生理活性物質であり、ラクトフェリンは母乳中のたんぱく質の約10%から30%を占めている。 乳汁より分離されたラクトフェリンはサーモンピンクを呈した、無味無臭のたんぱく質である。熱には弱く、市販の加熱処理された牛乳には、ほとんど含まれていない。しかし生乳から抽出したラクトフェリンを本来の活性を失わずに殺菌する製造技術が開発され、現在ではラクトフェリンを含む牛乳やヨーグルトが販売されている。

3.2.2 ラクトフェリンは何に効くと言われている?
ラクトフェリンは花粉症やC型肝炎に効果があると言われている。また、強力な抗菌作用を持っていてO-157や大腸菌、そしてガンジダ菌などを殺菌するという働きがある。全体として抵抗力を高める効果をもたらすとされている上、ラクトフェリンは鉄分の吸収を促進するため、貧血にも効果があるとされる。他にも整腸作用、抗酸化作用が知られている。さらに最近の研究では、ラクトフェリンの発ガン予防効果を示した動物実験の結果も報告されている。この実験では、ラットに発ガン物質を与えると約6割のラットに大腸ガンが発生したが、ラクトフェリンを混ぜた飼料を与えると大腸ガンの発生率が半分以下に減少したと報告されている。この結果の原因の一つとして、ラクトフェリンを与えることによってガン細胞を攻撃する白血球の活性が高くなることが示唆されている。

3.2.3 ラクトフェリンはどのように効くと言われている?
ラクトフェリンの花粉症に対する作用は、まずラクトフェリンが小腸にある上皮細胞を刺激することで腸内に存在しているIgA抗体の数を増やす。その作用でアレルゲンが体内に侵入されるのを防ぐ。またT細胞を反応させることでIgE抗体を低下させるので、症状の原因となる肥満細胞からのヒスタミン生成を抑制する。
殺菌・静菌に関しては、微生物が生育に必要とする鉄分がアポラクトフェリン(鉄イオンの結合していないラクトフェリン)のキレート作用で奪われるために、その生育に際して鉄分を強く要求する微生物の増殖を制限できる。また、悪玉菌の生育に必要な鉄を奪うので悪玉菌は増えにくいが、乳酸菌などの善玉菌は鉄分をあまり要求しないため、ラクトフェリンは整腸作用をもつ。

3.2.4 ラクトフェリンが人気の理由?
細菌に対して抗生物質に比べると効果が穏やかである反面、本来生体内で機能しているため使用に際しての副作用は少ないと考えられる。ラクトフェリンの利用が注目されているのは、まさにその点に期待するところが大きく、ミルクに含まれる全く天然の物質であるために、安全な添加物として考えられ、食品の安全性の面からも大きなメリットがあると考えられている。

3.3 KW乳酸菌 ~KW乳酸菌は免疫系に作用して花粉症、アレルギーに効く~

3.3.1 KW乳酸菌とは?
乳酸菌とは糖類を分解して乳酸をつくる菌。その中の1つであるKW乳酸菌は、小岩井乳業とキリンビールが共同研究を行った。カプセルやタブレットとしてそのまま摂取したり、粉末をミルクやジュースなどの飲み物や料理に混ぜて摂取する。1日の摂取量の目安は100mg。また、KW乳酸菌を含むヨーグルトや緑茶などの食品も市販されている。

3.3.2 KW乳酸菌は何に効くと言われている?
アトピー性皮膚炎や花粉症、慢性鼻炎の改善に効果があると言われている。例えば花粉症に関しては、以下のような実験が行われた。
1月から4月のスギ花粉飛散期に、花粉症に悩む28名のうち、半数の14人にKW乳酸菌のヨーグルトを、残り14人に普通のヨーグルトを1日200ml、約100日連続摂取してもらい、ダブルブラインド(二重盲検法)で試験を行った。その結果、普通ヨーグルト摂取群ではTh1/Th2比(後述)が100日弱の間に有意に低下(アレルギー症状が悪化)したが、KW乳酸菌ヨーグルト摂取群では有意な変化は認められなかった(アレルギー症状が悪化しなかった)。また、アレルギー状態が悪化しなかった人も、普通ヨーグルト摂取群は14人中3人(21%)だったのに対し、KW乳酸菌ヨーグルト摂取群は14人中7人(50%)と、多くなっている。

3.3.3 KW乳酸菌はどのように効くと言われている?
免疫の調節を司る細胞にヘルパーT細胞があり、機能的にTh1型とTh2型に分かれる。アレルギー発症にはTh1とTh2、2つの細胞が関与している。通常、Th1細胞とTh2細胞は相互にバランスを保ち免疫応答を制御しているが,アレルギー疾患では何らかの原因でTh2細胞が過剰になる。その結果Th2細胞によって花粉やダニなどに対するIgE抗体産生が誘導されるため、アレルギー患者では血中IgE濃度が上昇する。Th2過剰な状態を改善する、すなわち、Th1とTh2のバランスを改善することにより、IgE濃度の上昇を抑えることでアトピーや花粉症などのアレルギーの悪化を防げると考えられている。

3.3.4 KW乳酸菌を摂取する際の注意点?
妊娠中、授乳中でも、基本的には問題ない。ただこの期間は普通の健康状態とは異なりデリケートな体質になっていること、また胎児や乳児への影響は不明な点が多いので、心配なら控えるか、担当医に相談すると良い。乳幼児や小さいこどもについては、1才以上(離乳期を過ぎたら)であれば、大人と同じ量で構わない。ただし、小さいこどもの場合、カプセルやタブレットは喉に詰まらせる恐れがあるので、粉末タイプを飲み物や水に溶いたり、食事に混ぜて摂取すると良い。他の薬との併用については、基本的には問題ないと思うが、念のため、薬を処方されている場合は、担当医師に相談すると良いだろう。

3.4 コンドロイチン硫酸
コンドロイチン硫酸とはムコ多糖類の一種で、サメ軟骨などに多く含まれ、肌のみずみずしさを保つ・関節症を改善する・ガンを抑制するなどと言われる。しかし、血管新生を促進するという、通説とは正反対の効果を証明する論文もみられる。

3.4.1 コンドロイチン硫酸とは?
コンドロイチン硫酸はムコ多糖類(糖の水酸基がアミノ基に置換されたアミノ糖を含む多糖類)の一種である。体内で合成されるが、加齢と共に産生量が減少する。角膜・骨・軟骨・皮膚などに分布し、タンパク質と結合した状態でこれらの組織細胞の支持・保護・栄養補給に関わる。サメの軟骨やカニ・エビなどの殻に多く含まれ、それらからコンドロイチン硫酸を抽出して作られた健康食品が出回っている。

3.4.2 コンドロイチン硫酸は何に効くと言われている?
コンドロイチン硫酸は、皮膚の細胞に水分を保たせて弾力をもたせる作用から、主に美容目的で使われてきた。最近ではヒザの痛みや腰痛などの変形性関節症、慢性関節症リウマチに効くとされ、医薬品にも使われ始めている。また、固形ガンの増殖・転移を抑制すると言われている。

3.4.3 コンドロイチン硫酸はどのように効くと言われている?
上の各効用の作用機序について、巷で提唱されているものと最近の論文に書かれたものを合わせて紹介する。
肌の保水効果: 真皮を裏打ちするコラーゲンの隙間を埋め、血液で運ばれてくる栄養分や酸素、水分を細胞に供給する。老廃物の取り込みを早め、新陳代謝を促進する。さらに最近、乾癬の治療にも効果があるとする論文が発表された。
Verges J et al.“Clinical and histopathological improvement of psoriasis with oral chondroitin sulfate: a serendipitous finding”Dermatol Online J. 2005 Mar 1;11(1):31.
ガンの増殖と転移抑制: ガン細胞は増殖する時、栄養・酸素供給のため新しい血管(新生血管)を形成する。コンドロイチン硫酸には、この新生血管の形成を阻害する働きがあると言われている。しかし、詳しい作用機序について最近の論文を調べた結果、私達はこれらの通説に反する結論を得た。以下に示す論文によると、「コンドロイチン硫酸は血管新生を促進する」。血管新生は、血管内皮成長因子(VEGF)により直接促進される。トロンビンが内皮細胞上の受容体(protease activate receptor)に作用すると、VEGF受容体の発現が増加する。つまり、トロンビンはVEGFによる血管新生を相乗的に促進する。一方、アンチトロンビンはトロンビンを阻害する。ここでコンドロイチン硫酸を投与すると、このアンチトロンビンの阻害力が減衰することが示された。別の論文では、コンドロイチン硫酸を加水分解するコンドロイチナーゼを投与すると、ガン細胞の働きと血管新生が共に抑えられたと報告している。さらに、コンドロイチンを含むタンパク質はガン細胞に多く見られる。以上より、現時点ではコンドロイチン硫酸とガン促進を関連付ける見方が強いようだ。
Maragoudakis ME et al. “Mechanism of thrombin-induced angiogenesis” Biochem Soc Trans. 2002 Apr;30(2):173-7.
Denholm EM et al. “Anti-tumor activities of chondroitinase AC and chondroitinase B: inhibition of angiogenesis , proliferation and invasion.” Eur J Pharmacol. 2001 Mar 30;416(3):213-21.
変形性関節症・慢性関節症リウマチなどの血管新生依存性疾患の改善: 固形ガンと同様に血管新生を伴う疾患に対して、コンドロイチン硫酸はその形成を阻害すると言われている。しかし最近の論文によると、コンドロイチン硫酸には逆に血管新生を促進する可能性がある。変形性関節症に対する治療効果は、実験により部分的に証明されている。
Michel BA et al. “Chondroitins 4 and 6 sulfate in osteoarthritis of the knee: a randomized, controlled trial.” Arthritis Rheum. 2005 Mar;52(3):779-86.

3.4.4 コンドロイチン硫酸を摂取する際の注意点?
上述の通り、コンドロイチン硫酸の血管新生への影響については、通説と学説が正反対の効果を主張している。一方、コンドロイチン硫酸が配合された健康食品・サプリメントは、その大部分が肌の保水効果とヒザ痛・腰痛の改善を目的として販売されている。それらの効果を得るのに必要なコンドロイチンの摂取量は、ガン増殖・転移に関わる血管新生に影響を与えるのに必要な摂取量より多いか少ないか不明であるが、科学的に効果が解明されるまでは過剰な摂取を控えた方が良さそうである。
現在売られている健康食品には、サメ由来だけでなく、発酵により作られたコンドロイチンを含むものがある。サメ由来のものより吸収が早く、生臭くないなどの利点があると宣伝されている。それ以外に、カニ・エビ等の殻由来のコンドロイチンを含むものもあるが、カニ・エビのアレルギーを持つ人は注意が必要である。

3.5 DHA、EPA
DHA、EPAは魚油に含まれる不飽和脂肪酸で、体内の生理活性物質生成に影響を与え、動脈硬化の予防・悪玉コレステロールを減らす・アレルギーの軽減などに効くと言われている。

3.5.1 DHA、EPAとは?
DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、青魚の脂肪分に含まれる多価不飽和脂肪酸。DHAはマグロ>養殖マダイ>ブリ>サバの順に、EPAは養殖ハマチ>イワシ>マグロ>サバの順に多く含まれる。近年、特に欧米における魚の摂取量の減少を反映して、魚油をカプセルに包んだサプリメントやDHAを含む魚肉ソーセージなどが売られている。

3.5.2 DHA、EPAは何に効くと言われている?
血栓の形成を抑え動脈硬化を防ぐ、免疫を抑制してアレルギーを抑える、悪玉コレステロールを減らす、脳神経を活性化して頭を良くする(!)など、様々な効用が謳われている。

3.5.3 DHA、EPAはどのように効くと言われている?
上の各効用の作用機序について、巷で提唱されているものと最近の論文に書かれたものを合わせて紹介する。
 DHA/EPA血栓形成抑制、抗動脈硬化: 体内のω-3型不飽和脂肪酸は、αリノレン酸を経てプロスタグランジンと呼ばれるホルモン様の生理活性物質へと変化する。EPAの場合、血管壁を弛緩させるプロスタグランジンI3や血小板の凝固を防ぐトロンボキサンA3へと変化する。一方DHAは、血小板を強く凝固させるトロンボキサンA2の産生を抑制する。これらの作用がいわゆる「血液サラサラ」状態を作り出し、血栓の形成を抑制すると言われている。
 DHAアトピー性皮膚炎の改善: アトピー性皮膚炎では、アラキドン酸カスケードによりプロスタグランジン・ロイコトリエン・トロンボキサン・血小板活性因子が産生され、炎症が起こるとされている。DHAは、アラキドン酸がプロスタグランジンI2に変換されるのを抑制することでカスケード反応を阻害すると言われている。また、DHA/EPAをアトピー発症の早い時期に投与するほど血中のアラキドン酸濃度の減少が大きいとする論文が発表されている。
Abba C, Mussa PP, Vercelli A, Raviri G.
Essential fatty acids supplementation in different-stage atopic dogs fed on a controlled diet.
J Anim Physiol Anim Nutr (Berl). 2005 Apr;89(3-6):203-7.
 DHA/EPA悪玉コレステロールの減少: 肝臓で作られたコレステロールは血流に乗り、各細胞へと運ばれる。この時、細胞表面のLDLレセプターが開くとコレステロールは取り込まれるが、これが開かないと血中にコレステロールが多く留まる。DHA、EPAはこのレセプターを開く効果があると言われている。
 DHA脳神経活性化、記憶力増強: 脳に取り込まれたDHAは、脳血液関門を通過し、速やかに脳細胞の小胞体・神経終末・ミトコンドリアに分布して、情報伝達及び細胞のエネルギー代謝に関与すると推定されている。(不飽和結合6つのDHAは脳血液関門を通過できるが、不飽和結合5つのEPAは通過できないため、この効能は期待できない。)また、神経細胞が突起を伸ばしてシナプスを形成するには膜の原料となるリン脂質が必要で、脳内でリン脂質として存在するDHAはシナプス形成に関与すると言われている。

3.5.4 検証:DHA、EPAは本当に効く??
これまでに見てきた企業の宣伝や最近の論文から、DHA/EPAを摂取すると上に挙げた様々な効果が期待できることが分かった。ではこれらの効果を得るためにDHA/EPA配合の健康食品をとることが本当に有効か、私達なりに考えてみた。結論を先に言うと「DHA/EPAは、健康食品だけに頼らず魚を食べて摂取しよう」。

私達が考慮したポイントは三つある。①「DHA/EPA配合」と書かれた商品には、効果が現れるのに必要な量が含まれているか(量の問題)、②天然の食品とは異なる形で摂取されたDHA/EPAはきちんと効果を発揮するか(質の問題)、③DHA/EPAを大量に摂取しても悪影響は無いか(副作用の問題)。①:農林水産消費技術センターの調査によると、マグロの刺身にはDHAが2877mg/100g、マイワシに1136mg/100g含まれるのに対し、DHA入り魚肉ソーセージ232mg/100g、一般の魚肉ソーセージ133mg/100g、DHA入りビスケット27mg/100g、一般のビスケット5mg/100gとなっていて、含有量は天然食品と比べてあまり多くない。論文等の実験ではDHA2~3g/日で投与するケースが多く、効果が期待できるのは1g以上と言われている。②:二重結合を多く含むDHA/EPAのような不飽和脂肪酸は、空気中で酸化を受けやすい上、光や熱により二重結合部位が分解されて低級脂肪酸や有害なアルデヒドを生じる。DHA/EPAの精製過程でこれらの反応が起こる可能性がある。③:医薬品より効果が小さいとはいえ、大量に摂取すれば副作用の問題が生じる。血栓形成抑制に留まらず出血を起こしやすくしたり(特にDHAは脳血液関門を通過できるので脳出血の誘発が予想される)、免疫を過剰に抑制したりする可能性がある。それらを裏付ける論文も近年発表されている。

以上の理由から、DHA/EPAを健康食品に頼って摂取するのはあまりオススメできない。一方、青魚からとれるDHA/EPA量は調理方法により変化する。FGG総合研究所の調査では、イワシの素揚げではDHA100%→45%、EPA100%→37%と激減し、焼くとDHA87%、EPA89%、煮るとDHA、EPA共に100%→100%となる。しかし、先ほど述べた加熱によるDHA/EPAの変性の問題があるため、青魚は生のまま(刺身等)で食べるのがベストだと考えられる。

3.6 ポリフェノール
ポリフェノールは化学構造式上OHが2つ付いた物質の総称で、活性酸素の持つ弊害を抑制する抗酸化作用を持つ。

3.6.1 ポリフェノールとは?
ポリフェノールは特定の物質の名前ではなく、「ポリ=たくさん」、「フェノール=ベンゼン環がついた水酸基」から、「たくさんのフェノール性水酸基がある物質」の総称で、化学構造式上、OHが2つ分子についている。ポリフェノールは植物に一般的に含まれている、光合成によってできた植物の色素や苦味の成分で、紫外線や害虫など外部の悪影響から身を守る抗酸化や解毒の働きを持つ。ポリフェノールは人間の体内でも抗酸化の働きをし、活性酸素の持つ弊害を抑制する効果を持つ。カテキン、タンニン、アントシアニン、イソフラボン、カカオマスポリフェノールなどはポリフェノールの一種である。

3.6.2 ポリフェノールは何に効くと言われている?
先述の通りポリフェノールと認定されるものは、化学構造式上、OHが2つ分子についているもので、そのOHの部分が活性酸素に働きかけ、そのほかの部分はそれぞれ独自の性質を表している。そのため様々な食材に含まれるポリフェノールがそれぞれ独特の効能を発揮する。カテキン・タンニンは殺菌効果、ケルセチンは脂肪吸収抑制、イソフラボンは女性ホルモンバランスの調整、ルチンは血圧降下、クロロゲン酸は発がん性物質の除去、カカオマスポリフェノールはストレス抑制、などという効果があると言われている。

3.6.3 ポリフェノールはどのように効くと言われている?
人間が体内に取り込む酸素のうち約2%は、体内で活性酸素と呼ばれる物質に変化する。活性酸素は体内の免疫細胞が、そこに入ってきた病原体と戦う際の武器に使われるものである反面、過剰に生成され続けると体内の脂質やたんぱく質、糖、核酸などを酸化させ変性させていく。この活性酸素はさまざまな病気の原因の1つにあげられるのだが、これに対抗する物質が抗酸化物質なのである。抗酸化物質には、ビタミンC、Eやβ‐カロテンなどがある。人間の身体は細胞の脂溶性部分と、細胞間の水溶性部分とに分けられ、発生した活性酸素はその両方の部分をみさかいなく傷つけるのだが、対抗する抗酸化物質の働く領域は物質によって違いがある。ポリフェノールは多くは水溶性部分で働いているけれども一部は脂溶性部分で働いているものもあり、両方の場所で働いている抗酸化物質である。様々な疾患は、疾患が起きる場所の細胞が傷つけられることが原因で、最も活性酸素に傷つけられやすいのは細胞膜の部分だが、ポリフェノールはその細胞膜上で活性酸素と戦う抗酸化物質なのだ。しかしこのような抗酸化物質は加齢とともに減少するため、本来処理していたはずの活性酸素が細胞を錆び付かせ、老化を引き起こすことになるのである。そこで減少した抗酸化物質(今の場合、ポリフェノール)を食品やサプリメントから補うことで、活性酸素の持つ弊害を抑制することができるのである。






































3.6.4 ポリフェノールは何に含まれている?
先述した通り、ポリフェノールはほとんどの植物に含まれている。色が鮮やかな物、渋み、苦味があるものに多く含まれている、というのも1つの目安である。

3.6.5 ポリフェノールには例えばどんなものがある?
(1) 茶カテキン
茶カテキンは抗酸化作用を有するポリフェノールの一種であり、肝臓での脂質代謝を活性化することにより体脂肪低減効果を示す。

(ⅰ) 茶カテキンとは?
茶カテキンとは、緑茶の中に最も多く含まれている成分(3-ヒドロキシフラバン構造を有する化合物の総称)で、抗酸化作用を有するポリフェノールの一種である。茶葉を急須で入れた場合、湯のみ1杯(120ml)に80mgほどの茶カテキンが含まれている。

(ⅱ)茶カテキンは何に効くと言われている?
抗酸化作用、殺菌作用、抗ガン作用、高血圧低下作用、血糖値上昇抑制作用、体脂肪低減効果などの多くの生理作用が知られている。体脂肪低減効果により、糖尿病、高血圧などの生活習慣病発生の予防にもなると言われている。

(ⅲ) 茶カテキンはどのように効くと言われている?
〈体脂肪低減効果の統計的裏付け〉
茶カテキン豊富なお茶ヘルシアを発売した花王が、茶カテキンのヒトに対する体脂肪低減効果に関して、初めてその有効性を明らかにした。
男性43名、女性37名の計80名(肥満度は「普通体重~1度の肥満」に相当)を、A:高濃度茶カテキン群(39名)とB:コントロール群(41名)に分け、ダブルブラインドの並行試験を行った。A群は1本当たりの茶カテキン量が588mg/340mlの飲料を、B群は市販緑茶飲料に相当する1本当たりの茶カテキン量が126mg/340mlの飲料を、食生活および運動量を日常生活そのままに維持した状態で、毎日1本、12週間飲み続けた。その結果、Aの高濃度茶カテキン群はコントロール群に比べて体重、BMI、腹部全脂肪量及び腹部内臓脂肪量が統計的に有意に減少した。(ただし、高濃度茶カテキン群では、71.8%の人に体重が0.5kg以上の減少が認められたが、残りは体重が0.5kg以内の減少、もしくは微増だった。食事や運動などの個人の生活スタイルや遺伝的な要因に起因する個人差がある。)この体重減少量から計算すると、高濃度茶カテキン588mg/340mlを飲用することによる1日当たりの消費エネルギー量の増加は、約100kcalと計算される。これは約10~15分のジョギングで消費されるエネルギーに相当し、米飯では茶碗半杯~1杯弱のカロリーに相当する。

〈体脂肪低減効果の科学的裏付け〉
食事の中の脂質は小腸から吸収され、血液によって全身の様々な組織に送られる。体の中で脂質代謝に大きく関わっているのが肝臓である。脂質の一部は肝臓で「β酸化」というエネルギーを得るための分解を受け、最終的に水と二酸化炭素になる。これは、肝臓(肝細胞)にある脂質を燃焼させエネルギー化するための酵素(β酸化関連酵素)の働きによるものである。そして、エネルギーとして使用されなかった脂質は血液を介して全身をめぐり、脂肪組織に蓄えられていくのである。体脂肪の蓄積は、食物から摂るエネルギー量(摂取エネルギー量)が、運動などで消費するエネルギー量(消費エネルギー量)を上回る場合に起こる。

高濃度の茶カテキンを摂取すると、血中にでてきたカテキンは肝細胞に到達することが報告されており、さらに、肥満モデル動物を用いた最近の研究において、高濃度茶カテキン摂取時、肝臓での脂肪燃焼酵素(β酸化関連酵素)の遺伝子発現量が40%近く増加していること、さらに脂質のβ酸化活性が約3倍に上昇していることが報告された。これらの結果は、高濃度茶カテキンを摂取することにより、肝臓での脂質代謝が活発になり、結果として脂質の燃焼によるエネルギー消費の増加が起こっていることを示唆している。高濃度の茶カテキンはエネルギー消費量を増加させることにより、体脂肪を低減する効果が発現しているものと推察される。

(2) アントシアニン
アントシアニンは目の働きを活発にする効果を持つ。このためアントシアニンを多く含むブルーベリーが欧米では医薬品として使われている。日本でもブルーベリーのサプリメントが薬局などで見られるようになってきた。

(ⅰ) アントシアニンとは?
アントシアンは、酸性溶液中では赤色、塩基性溶液中では青色を示す色素の総称である。しかし天然物の中に含まれるアントシアンは配糖体の形で存在しており、これをアントシアニンと呼ぶ。ブルーベリーそれ自体は、ツツジ科スノキ属の北米原産の植物で、普段私たちはその実を食べている。身の色は濃い青紫色で、小粒の甘酸っぱい実であるが、その中の特に皮の部分にアントシアニンが多く含まれ、医薬品、サプリメントとして使われている。ブルーベリーには15種類ものアントシアニンが含まれていると言われ、効果が高いようである。

(ⅱ) ブルーベリーは何に効くと言われている?
アントシアニンには、目の働きを活発にする効果があるといわれている。そのため、医薬品として夜盲症の治療などに用いられてきた。また、眼精疲労に対処するサプリメントとしても売り出されている。また、循環機能の改善や、体内のビタミンEなどを超える抗酸化作用についても注目されているようである。
(ⅲ) ブルーベリーはどのように効くと言われている?

通常、人間の目に光が入ってくると、網膜に存在するロドプシンが分解され、脳に信号が送られる。しかし、ロドプシンはそのままでは次に入ってくる光の情報を感知できないので、即座に元のロドプシンに戻される。この過程を活性化するのがアントシアニンである。つまり目の光を感受する働きが活性化される訳であるから、目の機能の向上につながるのである。
また、アントシアニンにはビタミンP(ルチン)のような作用があるといわれている。ビタミンPは、毛細血管の抵抗性を高めて毛細血管から血がにじみでる性質を抑制する作用があるようである。よって、特に脳内での毛細血管の損傷を抑える効果が期待されている。

(3) イソフラボン
イソフラボンは、大豆胚芽に含まれるフラボノイドの一種であり、女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをすることで更年期障害などに効用がある。

(ⅰ) イソフラボンとは?
イソフラボンとは、大豆胚芽に特に多く含まれるフラボノイドの一種である。今のところ、ダイゼイン、ゲニステインを代表とする15種類の大豆イソフラボンが確認されており、最近女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをすることで注目されている。イソフラボンは大豆のほかに葛の根やクローバーなどにも含まれている。自然に存在する成分であり薬ではないため、副作用の心配はないと言われている。

(ⅱ) イソフラボンは何に効くと言われている?
更年期障害(のぼせ、ほてり、心悸亢進、発汗、冷え性、憂うつ感、焦燥感、不眠、耳鳴り、記憶力・判断力の低下、しびれ、下痢、頻尿、肩こり、腰痛、全身倦怠感など)、骨粗鬆症、ガン予防、動脈硬化、美容効果

(ⅲ) イソフラボンはどのように効くと言われている?
〈更年期障害〉更年期障害は女性ホルモンの不足が引き金となるので、女性ホルモン作用をもつイソフラボンはおおいに有効である。その作用の強さは生体内の女性ホルモンに比べてかなり弱いが、摂取していれば血液中のイソフラボン濃度が高い数値で維持され、更年期になると低下する女性ホルモンの作用を補う。そしてホルモンバランスが崩れることによって起こる更年期障害に対し軽減効果をもたらす。
更年期障害の自覚症状がある女性11名(48~57歳)に、イソフラボンアグリコンを40mg/日×3ヶ月摂取してもらった結果、更年期障害の症状の1つである顔のほてりの減少が認められた。(平成13年第35回日本成人病学会発表)
〈骨粗鬆症〉骨粗鬆症は閉経後の女性に多い病気であるが、閉経後に起こりやすくなるのは、女性ホルモンのエストロゲンの不足による。エストロゲンは、骨から溶け出すカルシウム量を抑えて骨を保護する役目をしている。イソフラボンは、その女性ホルモンの激減を緩和する。イソフラボンを毎日摂取する試験をフジッコと京都大学大学院環境学研究家の共同研究で行ったところ、尿中のイソフラボン量が増加する一方、骨からカルシウム溶出の指標となる骨代謝マーカーの量が減少した。この結果から、イソフラボンは骨からのカルシウムの過剰な溶出を抑制することで、骨密度の低下を抑えることが分かる。

〈動脈硬化〉血液中のコレステロール、特に「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールの増加が動脈硬化を促す。一方、「善玉」と呼ばれるHDLコレステロールは悪玉を減らす作用があるが、イソフラボンは悪玉を減らすうえに善玉を増やすという理想的な実験結果を出している。40~60歳の閉経後の日本人女性に対して行った実験では、1日に約40mgのイソフラボンを4週間毎日摂取してもらい、実験前と実験後のコレステロール値の変化を調べると、摂取前の226mg/dlが、摂取後は215mg/dlへと下がっていた。

〈美白効果〉シミは黒色メラニン色素が沈着することで発生するが、黒色メラニン色素の前駆体である[ドーパ][ドーパ・キノン][ドーパ・クロム]が生成する過程をイソフラボンが抑制することが報告されている。この作用はイソフラボンを皮膚に直接塗ることによっても、経口で摂取することによっても認められている。

3.7 コエンザイムQ10
コエンザイムQ10は、人間の細胞の中にあるミトコンドリアに多く含まれ、エネルギー生産を助ける補酵素の役割を持ち、また抗酸化作用を持つ、細胞レベルから身体を活性化させる物質である。

3.7.1 コエンザイムQ10とは?
人間はおよそ60兆個の細胞から成り、これらの細胞が日常生活を送る上で必要なエネルギーを作り出している。なかでもすべての細胞の内部に50~200個ほどあるミトコンドリアは生命体が必要とするエネルギーの約95%を生み出す。コエンザイムQ10は、このミトコンドリアの中でエネルギー生産を助ける補酵素の役割を果たす。補酵素とは、化学反応によって体内の物質を分解したり合成したりする酵素の働きをサポートする物質である。コエンザイムQ10は体内すべての細胞にあり、その量は組織によって異なるが、心臓、腎臓、肝臓などエネルギー代謝が盛んな臓器や器官ほど多量に含まれる。特に心臓に多い。

またコエンザイムQ10は強力な抗酸化物質である。人間が身体に取り込んだ酸素のほとんどは全身の細胞へと運ばれエネルギーを作るのに使われるのだが、取り込んだ酸素のうち約2%は使われないまま残り、不安定な構造の活性酸素と呼ばれる物質に変化する。活性酸素は本来外敵から身を守るためにあるが、過剰に生成され続けると体内の脂質やたんぱく質、糖、核酸などを酸化させ変性させていく。活性酸素は3大習慣病の心臓病、ガン、脳卒中などさまざまな病気を引き起こす原因の1つにあげられ、また肌の酸化ストレスによって生じるシミ、シワなどを引き起こす。抗酸化物質はこのような活性酸素を退治する物質である。抗酸化物質にはほかにビタミンC、Eやβ‐カロテン、ポリフェノールなどが知られている。コエンザイムQ10は自身が抗酸化物質であるのに加え、長時間活性酸素を攻撃し続けて自身が酸化してしまった抗酸化物質を元の抗酸化物質に戻す働きもある。

3.7.2 コエンザイムQ10は何に効くと言われている?
心臓病の予防や治療だけでなく、老化防止、ガン予防、免疫力の増進、歯周病の改善に有効なほか、パーキンソン病やエイズの治療補助薬などさまざまな分野で研究が進められている。体力増強や運動後の疲労予防の効果を期待するスポーツ選手にも注目され、皮膚に塗ることでシワにも効くのではと、美容面での関心も高まっている。

3.7.3 コエンザイムQ10はどのように効くと言われている?
ミトコンドリアでは人間のエネルギーの元であるATPが合成されているのだが、コエンザイムQ10はその合成反応ADP + Pi → ATPで必要な電子を運ぶ役割をしている。上式の逆反応が起こることによりエネルギーが得られることになる。つまり、コエンザイムQ10がなければATPは合成されず、結果人間はエネルギーが得られなくなってしまうのである。しかし体内のコエンザイムQ10の量は、体内での生合成と、体外からの補給の2つの供給方法で維持されるが、20歳をピークに低下し始め、40代以降は急速に減少する。心臓の場合、40歳で20代の70%弱、80歳では半分以下にまで減ってしまう。すると細胞内でエネルギーが十分に作られなくなり、臓器の働きが衰え、身体全体の体力の低下、そしてさまざまな病気を引き起こす可能性が出てくるのである。そこでサプリメントなどでコエンザイムQ10を補給すると、衰えていた細胞がエネルギーを生み出すようになり、さまざまな臓器や器官の機能が復活するというわけである。

3.7.4 コエンザイムQ10を摂取する方法?
コエンザイムQ10は身体の中に元々存在する成分だが、食品にも含まれており、中でもコエンザイムQ10を多く含む食材は、イワシ・牛肉・ブロッコリーなどである。老化防止や健康維持のためにコエンザイムQ10は1日約30~60mg必要とされているが、たとえば1日60mgを食物のみから摂取しようとすると、イワシならば約12匹、牛肉だと1.9kgも食べなければならない。また、食物だけでコエンザイムQ10を摂取しようとすると、必要以上に脂肪分とカロリーを取り込んでしまい、栄養のバランスを崩すことになる。
そこで、効率的にコエンザイムQ10を摂取するためには、サプリメントが重要になってくる。コエンザイムQ10は脂溶性なため、食後にサプリメントを摂取すると効果的である。

不老不死への科学