第4章 〜総括〜

第1章から第3章では健康食品の定義から始めてビジネス、各論と述べてきた。ここでは最後に総括として、各章の内容を踏まえたうえで健康食品の今後の展望について考察する。

4.1 まとめ

4.1.1 健康食品の安全性
健康食品が日常的に見られるようになった今日でも、その安全性については未だに疑問な点が多い。今回の私たちの調査でも、その効果について、通説と学説が真っ向から対立していて、従来は疾病を快方へ向かわせると考えられていたのに、逆に悪化させる可能性さえ孕んでいるものや、まだ研究が進んでおらず胎児や乳幼児への影響は「不明」とする不確かなものもある。これらのことからも分かるようにその安全性は完璧ではない。しかしながら、それぞれの健康食品の成分は、本来ヒトの体内で合成されているものや、以前から食物として摂取されてきたものが多く、薬品に比べて効果は穏やかであるかもしれないが副作用も少ない、と考えてもよさそうである。

これらのことから、健康食品の安全性は絶対的なものではないということを常に心に留めておくことは大切なことであるが、過剰摂取による効果減衰や弊害は、健康食品に限らず食品全般に関して言えることであるので、それらの点ばかりに着目して「健康食品は危険だ」と考えるのは早計だと思われる。

4.1.2 健康食品の摂取について
健康食品にはそれぞれ「身体の生理学的機能や生物学的活動に関与する特定の保健機能を有する成分」が含まれているとされているが、その成分の摂取については、主に次の三つの方法が考えられる。

@目的とする成分を含む普通の食物から摂取する。
A目的とする成分が精製・濃縮など加工された健康食品から摂取する。
B目的とする成分のみをサプリメントや錠剤として摂取する。

この三つの方法にはそれぞれ一長一短があり、最も効率的な方法というのも成分によって異なるので、一概にどれが良いとも言えない。それぞれの健康食品の長所を、食生活にうまく活用していくことが理想であろう。

4.1.3 健康食品の時代性
日本の食生活が西洋化して久しい。手軽なファーストフードも普及してきている。このように食生活が大きく変化したことで生活習慣病の患者が増加し、一方で、マスメディアの発達など我々を取り巻く社会状況も激変しており、テレビやインターネットなどから容易に多量の情報を得ることができるようになった。このような時代の流れに対応するようにして健康食品のブームがやってきた。今回の調査から、健康食品がそれぞれある程度根拠に基づいたものであるということがわかった。このことを逆に考えると、健康食品に限らずその他の食品にも、未だ解明されていない効果的な成分や、生活に必要不可欠な機構を持つ物質が存在するということを示唆しているようにも思われる。したがって健康食品は、ヒトが食物について科学的に理解しようとするときの足がかりとなるのではないだろうか。誇大広告や端的な説明に惑わされず、それぞれの食品のもつ効果や弊害を冷静にとらえていくことが求められるだろう。

4.2 展望

4.2.1 健康食品の意義
健康食品の人気が今後も継続するかどうかを検証する。今後訪れる超高齢社会では、現在よりもさらに多くの人々が医療機関の門をくぐることになるであろうことは想像に難くない。しかし、日本の医療保険財政は現在でさえ年々悪化の一途を辿っており、現在の医療制度が破綻しかねない状態である。この現状を打開するために、政府は2003年4月から、医療費の自己負担率を2割から3割に引き上げた。また、政府がこのほど発表した「バイオテクノロジー戦略大綱」では、健康食品は重要産業として位置付けられているが、これは予防医療が重要であるということの他に、医療保険の適応されない「健康食品」を積極的に導入することで医療保険の適応される「医薬品」の消費を抑えて医療費の増加を抑えようという思惑も見え隠れしている。

以上のように時代の流れや政府の政策方針を鑑みる時、健康食品市場は拡大を続けることはほぼ確実である。また先進諸国に多い肥満などの生活習慣病は、いずれ現在の発展途上国にも広がっていくと考えられるし、薬よりも安価な健康食品は、ダイエットやコレステロール値などに効果があるものは、仮に現在の健康食品ブームが下火になっても生活の一部としての意義が確立され続けると予想できる。

4.2.2 ビジネスとしての健康食品の展望
健康食品業界は全体的な傾向としては、製造、販売ともに今後は大規模化が進むと考えられるが、新規の商品を生む研究開発については、小回りの利く中小企業の活躍する余地が大きいと考えられている。また、第1章で分類した三種類の健康食品について、これらが今後どの方向に向かってゆくのかについてもそれら三種類を比較しながら考えてみる。

まず特定保健用健康食品であるが、これは第2章で述べたように、その他の健康食品よりも開発費・時間ともにかかるが、効果は比較的保証されており、消費者は安心して投資できる。さらに、製薬会社が持つ医療開発のノウハウを適用することで、特定保健用健康食品の開発費用と開発にかかる時間を減らすことができれば、効果の高い特定保健用健康食品を、より安価で市場に提供できるようになる。

それに対し、栄養機能食品及びその他の健康食品は、機能評価免除されているなど基準が緩いので、開発費が低く済み、企業は発売までこぎつけ易く、また成分含有量の制約が少ないため商品の改良も容易で、食感や味などの点で消費者のニーズに応えやすいという利点がある。

特定保健用健康食品が、企業にとってどの程度「扱いやすく」なるかが、栄養機能食品との生き残り競争に勝ち残っていく鍵となるであろう。錠剤型サプリメントは、味や食感の特徴から、日常の食生活に取って代わることはないであろうが、摂取したい栄養素を、ピンポイントで手軽に摂取できる便利さから、需要がなくなることはないと予想される。

4.3 結論
4.1、4.2で健康食品の生活の中での位置付けと展望について考察してきた。今後も健康食品が私たちの食生活において、さらに生活の一部として、一定の役割を果たすことは間違いないであろう。しかしながら、結局健康とは、特定の基準を満たしたいわゆる「健康食品」を摂取することで達成されるのではなく、栄養学に基づくバランスのとれた食事から実現されるものである。そのことをよく認識しておきたい。

不老不死への科学