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2章 〜がん発生のメカニズム〜

がんは分裂増殖が際限なく行われる細胞の病気であり、抗がん剤はがん細胞の増殖および生存を阻止し、これを死滅させることを目的として使用される薬である。
細胞のがん化には、(ⅰ)細胞周期、(ⅱ)がん抑制遺伝子とアポトーシス(細胞の自殺)、(ⅲ)テロメア、等に関連した異常が徐々に蓄積していかねばならない。がんによって必要な性質の組み合わせは異なるが、がん細胞に必須の挙動には、

1、細胞の内外から送られる増殖の調節シグナルを無視する。
2、アポトーシスによる自殺を回避する傾向がある。
3、予定された増殖制限を免れ、複製による老化を回避する。
4、最初の組織から脱出(浸潤)し、別の部位で増殖(転移)する。

等が挙げられる。現在使われている抗がん剤の大部分は細胞傷害性の薬で、(ⅰ)に関連している。(近年は分子標的薬という、遺伝子やタンパク質に直接作用し、副作用の少ない新薬の開発がなされ、いくつかが医療の現場で実際に使われている。これについては、X章以降で述べることにする。)つまり、細胞周期のどこかでがん細胞を傷害し、無秩序な分裂を抑えることを狙っている。そこで、ここではまず細胞周期および情報の発現(転写、翻訳)のうち細胞傷害性抗がん剤に関わる部分の概要を述べ、次にそれを利用した細胞障害性抗がん剤の作用機序と副作用について述べる。

2.1 細胞周期
(Ⅰ)細胞分裂の最も基本的な機能は、染色体中のDNAを正確に倍化し、これを正確に分離して遺伝的に同一な2つの娘細胞を作ることである。大きく分けて4つのフェイズ、すなわちG1、S、G2、M期がある。G1、S、G2期をまとめて間期という。S期(Synthesis;合成)にはDNAの複製が行なわれ、M期(Mitosis;有糸分裂)には染色体の分離および細胞分裂が起こる。また、この過程は非常に正確に進める必要があるため、細胞内外の環境を監視し、準備が完了しているか、時期が適切であるか等の確認が重要である。G1、G2期(Gap)にはそれぞれ制限点と呼ばれるチェックポイントがあり、この役目を担っている。G1期は特に重要で、分裂に好ましい状況でない場合、G0期という非常に長い休止状態に入ることができる。大部分の体細胞はG0期にとどまっており、代謝は正常に行なっているが、細胞分裂の方向には進まない。成長や分裂を促すサイトカインや増殖因子等のシグナルが存在すれば、G1期またはG0期の細胞は分裂を再開する。

(Ⅱ)実際に分裂の起こるM期は更に前期、中期、後期などに分けることができる(顕微鏡で観察可能)。前期には染色体が凝縮し、時間経過とともに太く短くなっていく。また、中心体が両極へ移動し、核膜が消える。前中期には両極の中心体間が微小管により結ばれる。この微小管の束を紡錘糸といい、続く中期で細胞の中央に並んだ染色体は、後期でこの紡錘糸に沿って両極へと移動する。これにより、S期に複製された情報が等量ずつ分配されることになる。

(Ⅲ)よく知られているようにDNAは2重らせんを形成しており、S期に複製が行なわれる際にはそれぞれの鎖を鋳型として新たな核酸塩基がつながっていく(半保存的複製)。この時に複製起点と呼ばれる部位かららせんがほどけ、そこから複製が始まるが、この速度は細胞分裂にかかる時間と比べて非常に遅い。そこで、複数の起点で同時に複製が行なわれるが、今度は立体的な問題を生じてしまう。(らせん状にからませた紐の一端を固定し、もう片方から2本に分けようとすると、ねじれは固定したほうに集まってしまう。これと同じ状態。)この問題を解消するのがトポイソメラーゼという酵素で、トポイソメラーゼⅠはDNA鎖の一部分を切断、トポイソメラーゼⅡは再びつなぎ直す役目を担う。

2.2 転写・翻訳
DNAの持つ塩基配列の一部を写し取ってRNA分子を合成する過程を転写といい、DNA上に保存されている情報を発現するために重要なものである。複製と違い、転写ではDNAの限られた区間しか使われない。(因みにこのひとまとまりの区間を遺伝子という。)転写される部分のDNA鎖が一時的にほどけ、どちらか片方の鎖を鋳型としてRNA鎖が作られる。
ヒトのような真核生物の場合、RNA上に写し取られた情報には実際に情報を持つ部分(エキソン)と持たない部分(イントロン)があるため、スプライシングという過程でイントロンが除去される。その後リボソームという装置により遺伝情報が読み取られ、種々のタンパク質が合成される。(翻訳)

不老不死への科学