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4章 〜抗がん剤の種類と作用機序〜

3章では細胞障害性抗がん剤の作用について細胞分裂の過程から概要を見てきたが、このような作用を持つ抗がん剤はその機能を発揮するメカニズムによっていくつかの種類に分けられる。この章では、このような分類からアルキル化剤、代謝拮抗剤、

4.1 アルキル化剤
DNAの二重らせん構造の中で、最も重要な遺伝情報を保持する部分は塩基対(base pair)と呼ばれる。これはDNAにおける二つの相補的ヌクレオチドの結合で、塩基成分間の水素結合で安定化されていて、アデニンはチミンと(A-T)グアニンはシトシンと(G-C)対になっている。アルキル化剤は強い反応性を示す化合物であり、DNAおよび細胞内タンパク質に容易に結合する。アルキル化剤は反応性の高い陽性荷電中間体を生成、これによって核酸の陰性荷電部分、主にDNA分子内のグアニンN-7位がアルキル化される。その結果DNA二重鎖間の架橋や異常塩基対(C-Gに代わってT-G)を形成する。アルキル化剤のこのような作用の結果、DNAの複製及びRNAの転写が阻害される。この結果、細胞に対し致死的効果を与える制癌剤となる。(図2)

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更にアルキル化剤を分類してみる。

① ナイトロジェン マスタード類
ナイトロジェンマスタード:第一次世界大戦に使われたイペリットの細胞毒性に着目して合成された。(イペリット分子内のSをNに代えたもの)白血病や悪性リンパ腫の治療薬。

サイクロフォスファミド:肝臓の酵素によって活性体4-ヒドロキシフォスファミドとなりアルキル化作用を示す。急性及び慢性リンパ性白血病、リンパ腫その他の広範な腫瘍治療に頻用。

イフォスファミド:小細胞肺癌、前立腺癌及び子宮頸癌に用いられる。副作用が少なく、サイクロフォスファミドと交叉耐性を生じにくい。

メルファラン:ナイトロジェンマスタードのアルキル基をL-フェニルアラニンに置換し腫瘍に対する親和性を高めたもの。多発性骨髄腫などに用いる。

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アルキル化剤の臨床的有利性は、サイクロフォスファミドをはじめとし経口投与可能な薬物が多いことである。
副作用:骨髄抑制による白血球減少等。出血性膀胱炎(アルキル化剤に特徴的な副作用でメスナを静脈投与することによって抑制する)。

②ニトロソウレア類
DNA分子をアルキル化し、分解産物イソシアネート(R-N=C=O)によりタンパク質をカルバモイル化する。高い脂質溶解性を持つため血液脳関門を通過するものが多く脳腫瘍の治療に用いられる。

ニムスチン:脳腫瘍、消化器癌などをはじめとした広範な癌に有効。
ラニムスチン:骨髄腫、悪性リンパ腫などに有効。
他にもカルムスチン、ロムスチン、セムスチンなど。
副作用:骨髄抑制や腎不全をきたす。造血幹細胞を傷害するため特に骨髄抑制が遷延化(6~8週)する。

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③その他

ブスルファン:核酸よりもむしろ細胞内のSH基と反応するとされている。経口投与により慢性骨髄性白血病に特に用いられる。

チオテパ:カルボコンともども乳癌、卵巣癌、慢性骨髄性白血病に他剤と併用される。

ダカルバジン:アルキル化作用の強い肝代謝物により、主としてRNA及びタンパク質の合成を阻害する。

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4.2 代謝拮抗剤

DNAの4種の塩基のうち2種はプリン塩基のアデニン、グアニンであり、ディノーボ合成によって作られたイノシン1リン酸から作られる。他の2種の塩基はピリミジン塩基のシトシン、チミンであり、オロトサン、ウリジン1リン酸を経て作られる。塩基はアミノ酸からディノーボ合成されるもので、塩基やその合成酵素に似た物質は誤って取り込まれることにより、合成を阻害できる。これを狙ったものが代謝拮抗剤であり、現在の癌化学療法の主要な役割を担っている。ここでは代謝拮抗剤を三つに分類し、それぞれの作用機序と代表的な薬物を記す。

①葉酸代謝拮抗薬
メトトレキサート:ディノーボ合成に必要な補酵素である葉酸は、ヒトにとって外から補給する必要のあるビタミンの一種である。メトトレキサートは2水素葉酸リダクターゼを競合阻害することによって還元型葉酸の10ホルミル4水素葉酸(10CHOFH4)と5,10メチリル4水素葉酸(5,10CH2FH4)を枯渇してしまう。これらの還元型葉酸は、プリン合成と、デオキシウリジン1リン酸(dUMP)からデオキシチミジン1リン酸(dTMP)への転換に必要な物質であって、ここまでの過程の阻害の結果プリンかdTMPあるいは両方が作用できなくなるためDNA合成が停止され細胞死に至る。ある種の癌細胞では能動的なメトトレキサートの取り込み機能が欠落しているため、メトトレキサートを大量投与して受動的に取り込ませ、一定時間後にメトトレキサートの解毒薬である活性葉酸補酵素ロイコボリンを投与して能動的にロイコボリンを取り込むことのできる正常細胞を救援する。小児急性リンパ性白血病及び絨毛上皮腫に極めて有効。
副作用:胃炎、下痢症状が強く出る。他にも骨髄抑制、肝線維症、腎尿細管壊死、脱毛など。図6

②ピリミジン代謝拮抗薬
5-フルオロウラシル:5-FUはウラシルのピリミジン環5位の水素がフッ素に置換された構造を持つ。腫瘍細胞のDNAではウラシルがよく取り込まれることから開発された。5-FUは代謝を受けて、5-FdUMPとなり、チミジルサンシンターゼを阻害してDNA合成を抑え、一方5-FUTPとなりRNAの中に入り込みRNA合成を抑える。5-FUは静注だけでなく経口投与も行われる。すばやく分解されるという欠陥を補うためのプロドラッグとしてテガフール、カルモフール、ドキシフルリジンがある。5-FUは異化されて、ジヒドロフルオロウラシル(DHFU)となり分解される。この代謝はジヒドロチミジンデヒドロゲナーゼによって触媒されるが、抗ウイルス薬のソリブジンの代謝物は、この酵素と結合して5-FUの分解を阻害して、致死的毒性が生じるので注意が必要である。図7

シタラビン:シチジンのリボースをアラビノースに置換したもので、体内でアラビノフラノシルシトシン3リン酸(ara-CTP)を生成する。活性代謝物のara-CTPはⅰ)DNA分子内に取り込まれてDNA鎖の伸長及び動きを低下させ、DNA合成を阻害、ⅱ)DNA修復に関与するβ-DNAポリメラーゼを阻害して殺細胞作用を表す。Ara-CTPはDNAを合成する時期のS期細胞にもっとも有効であるが、悪性腫瘍細胞の分化を誘導する作用もある。急性骨髄性白血病の第一選択薬として重要。副作用としては、骨髄抑制及び消化管症状が強く現れる。後に開発されたエノシタビンはシタラビンが体内で速やかにアミノ基を失って非活性物質となり尿中排泄をされてしまうという欠点を改良したものである。

7                   図6

8                    図9

③プリン代謝拮抗薬

6-メルカプトプリン:天然プリンのヒポキサンチンとグアニンのプリン基の6位をSH基に置換したもの。体内でHGPRT(hypoxanthine-guanine phosphoribosyltransferase)により6-メルカプトプリンリボースフォスフェートとなり、ⅰ)プリン生合成の第一段階反応に対する偽フィードバック阻害を介してプリン生合成を阻害するほか、ⅱ)イノシン酸の生成を阻害し,ⅲ)核酸中に代謝物のチオグアニンリボヌクレオチドが組み込まれ広範な代謝障害を引き起こしS期細胞に有効に作用する。しかし、HGPRT活性の低下や分解酵素活性の上昇により薬剤耐性が生じる。急性リンパ性白血病の寛解に有効。

6-チオグアニン:グアニンのthio構造類似体。体内で6-thio-guanine-ribose-phosphateになり、6-メルカプとプリントと同様の機構でプリン生合成を阻害。急性骨髄性白血病に対しシタラビンと併用される。

4.3 抗生物質剤
ストレプトマイセスから取り出された抗生物質のいくつかが、制癌抗生物質として癌化学療法に用いられている。これらの抗生物質は構造的にDNA二重らせんの間の塩基対に類似しており、塩基対アナログとして塩基対の間に挿入されたり、架橋を作って転写の過程を抑制して癌細胞の増殖をとめて死に至らしめる。いくつかの代表的な薬剤について記す。

①アンスラサイクリン系:基本骨格は4員環に糖が結合したものでドキソルビシン(アドリアマイシン)とダウノルビシン(ダウノマイシン)が代表的。DNAと結合してDNAポリメラーゼ及びRNAポリメラーゼを阻害する。また、フリーラジカルを生成してDNAの単鎖の切断を起こす。
ドキソルビシンは効果の高い代表的抗腫瘍薬として用いられ、他剤と併用される。急性リンパ性及び急性骨髄性白血病に有効であるほか、さまざまな固形癌にも用いられる。ダウノルビシンは主に骨髄性及びリンパ性白血病に用いられる。
副作用:強い骨髄抑制、嘔吐、脱毛。累積投与量が500mg/m2を超えると心毒性を発現する。

②マイトマイシン:生体内で還元されて反応基を二つ持つアルキル化剤となり(グアニンのOをアルキル化)、二重鎖間の架橋を起こす。低酸素状態の細胞に対して強い細胞毒性を示す。慢性白血病の他各臓器の癌腫に用いられる。副作用として強い骨髄抑制が挙げられる。

③ブレオマイシン:ストレプトマイセスから分離された一群のグリコペプチド。Cu2+やFe2+とのキレート、フリーラジカルの生成を介し、DNA鎖を切断する。扁平上皮癌に対する強い毒性があり、皮膚癌、頭頚部癌、食道癌、などに有効で、睾丸腫瘍に対してはビンブラスチンとの併用で高い寛解率を示す。副作用として胃炎、脱毛、皮膚色素沈着などの粘膜皮膚傷害や肺線維症などの用量依存性の重篤な肺毒性がみられる。

4.4 植物由来の抗がん剤
以前から汎用されている有糸分裂阻害薬と最近導入されたトポイソメラーゼ阻害薬がある。有糸分裂阻害薬としてはビンカアルカロイドと西洋イチイから抽出したものの2タイプがある。トポイソメラーゼの阻害薬としてはイリノテカンやエトポシドがある。

①ビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン)
ビンブラスチン、ビンクリスチンはいずれもツルニチニチソウ由来である。両者の構造は似ているが、適用範囲が異なり(表 参照)、交叉耐性も生じない。微小管の構成成分であるtubulinと結合して紡錘糸機能を阻害し、細胞周期M期の中期で細胞分裂を阻止する。
ビンデシンはビンブラスチンに化学修飾を加えたもので、ビンクリスチンに抵抗性を示す腫瘍に有効であるといわれる。

②パクリタキセル、ドセタキセル
西洋イチイから抽出されたパクリタキセルは、微小管タンパクの重合を促進することにより微小管の安定化、過剰形成を引き起こし、紡錘体の機能を阻害する。ドセタキセルも同様の作用により細胞の有糸分裂を停止させ、抗腫瘍効果を発揮する。

③エトポシド
マンダラケから抽出されたpodophyllotoxin由来の半合成物質。DNAトポイソメラーゼⅡと結合してDNA合成を阻害する。細胞周期のS期後半からG2期に強い作用を示し、効果は作用濃度と作用時間に依存する。

④イリノテカン(CPT‐11)
植物アルカロイドの一種、カンプトテカンはRNAおよびDNA合成阻害作用を持つ。イリノテカンはこの誘導体で、トポイソメラーゼⅠによる一本鎖DNA切断後の再結合を阻害し、強い抗腫瘍活性を持つ。

4.5 その他の抗癌剤
シスプラチン:白金電極で通電した液の中では、大腸菌の分裂増殖が阻害されることから見出された。細胞内に入り、塩素分子の加水分解により活性化され、官能基を2個もつアルキル化剤として作用する。DNAの同一鎖内または異なるDNA鎖間での架橋を起こしてDNA合成を阻害し、癌細胞のどの周期に対しても強力な殺細胞効果を示す。泌尿生殖器系腫瘍をはじめ様々な腫瘍に効果を持つが腎毒性が強いので大量輸液と利尿薬を併用する。骨髄抑制は少ない。図10

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不老不死への科学